第四章・遥か一万年の彼方
Ⅳ  首領   =ドミトリー・シェコチヒン  機関長  =キール・ストゥカリスキー  操舵手  =ルキヤン・ゴルジェーエフ  レーダー手=カチェリーナ・ゴリバフ  宇宙を自動航行する開拓移民船。  船内では、居住可能な惑星が発見されるまで、冷凍睡眠カプセルで眠るミュータ ント族がいる。  総勢200名しかおらず、探査艇も搭載されていないので、移民船の惑星自動探 査システムに委ねていた。  前方に明るく輝く恒星が現れ、次第に欠けてゆく。  どうやら惑星による掩蔽(日食)が起きているようだ。  方向転換してその惑星へと進路を変える移民船。  と同時に、船内では警報が鳴り響いて、冷凍睡眠カプセルが解除されてゆく。  蓋が開いて、ゆっくりと起きだすミュータント族。  数時間後。  船橋に集まるミュータント族。  機関長のキール・ストゥカリスキーが報告する。 「現在、減速航行中です」  亜光速で進行中の船が惑星の衛星軌道に乗るための減速が続いていた。 「惑星の分光解析はどうだ?」  首領と呼ばれるようになっていたドミトリー・シェコチヒンが尋ねる。 「酸素18%、窒素78%、二酸化炭素1%未満、他です」  レーダー手のカチェリーナ・ゴリバフが答える。 「ふむ。酸素が少なめだが、十分生息可能だな。水はどうか?」 「大気中に平均0.2%ほど含まれてます」  環境問題でCO2が話題に上るが、実際は水蒸気の方が温室効果が高い。温暖化 になると海からの水蒸気が増えて、より一層温暖化を促進するという「水蒸気フ ィードバック」が起きる。  だからといって全く水蒸気がなければ、放射冷却で星はどんどん冷えてゆくこと になる。  惑星の縁から別の天体が現れた。 「衛星のようです。惑星の裏側にあったために気づかなかったです」  惑星より十分の一くらいだろうか、衛星の縁がくっきりと見えている。 「ふむ、みたところ大気はなさそうだな」 「いずれ鉱物資源を採掘できるでしょう」 「いずれか……いつになることやら」  総勢200名で移民船一隻しかない現状では、現時点では衛星に向かうことは不 可能である。  生きるためには、まずは惑星に降り立ち開拓を始めなければならない。  開拓が進み、人口も増えて、新たなる宇宙船を研究開発し建造して、再び宇宙へ 出られるには千年以上はかかるだろう。  惑星に近づくにつれて、さらに詳細が分かってくる。 「大陸と海の比率は、8対2です」 「生物は?」 「微生物はともかく、肉眼視できる生物は見当たりません」 「各種動植物の凍結受精卵や種が船内に保存されていますから、これから楽園を作 ることもできますよ」 「そうか……やはり、一から始めないといけないのか……食料の備蓄と、穀物類の 種の量はどうなっている?」 「食料に関しては心配の必要はありません。そもそも移民船としての役割を終えた として、災害時の備蓄庫として利用されてましたからね」 「それを、そっくり頂いたというわけか」  操舵手のルキヤン・ゴルジェーエフが報告する。 「衛星軌道に乗りました」 「よし、着陸態勢に入れ!」  数時間後、惑星への着陸が開始された。 「水流ジェットノズル噴射!」  大気圏に突入して、摩擦熱で移民船が灼熱に晒されるが、噴射される水が蒸気と なって気化熱に転換される。  巨大な飛行機雲をなびかせて、大気中を滑空する移民船。  高度がどんどん下がり、海面近くまで降りた。 「海岸線が見えます!」 「よし、接岸せよ」  凄まじい水飛沫を上げながら海面に降り立ち、慣性で滑りながら海岸線へと突き 進む。 「全員、何かに掴まれ!」  激しい震動が艦内を襲い、あちらこちらで倒れたり壁に打ち付けられたりしてい る。  着岸して停止する移民船。  船内では乗員が次々と起き上がり、窓やスクリーンに映る外界を眺めている。 「着いたぞ!」  口々に歓声を上げ始めた。  数時間後、移民船から次々と地上に降り立つ一同だった。 「ここが、俺たちの新世界だ!」  新しい惑星での暮らしが始まった。  当面の間は移民船を住居として、開拓が始まった。  惑星都市の名前は、サンクト・ピーテルブールフと命名された。  そして5000年後。  総人口が一億人を越えて、再び宇宙へと舞い上がるのだった。
     
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