第二十章 タルシエン要塞へ
Y  宇宙空間に出現する第十七艦隊。  旗艦サラマンダーの艦橋。  ワープを終えて一息つくオペレーター達。 「第一目標地点に到達しました。全艦、ワープ完了。脱落艦はありません」 「よし。全艦、艦の状態を確認して報告せよ」 「全艦、艦の状態を報告せよ」  エンジンに負担を掛けるワープを行えば少なからず艦にも異常が生じる。それを確 認するのは、戦闘を控えた艦としては当然の処置であった。特に旗艦サラマンダー以 下のハイドライド型高速戦艦改造II式は、今だに改造の続いている未完成艦であり、 データは逐一フリード・ケースン少佐の元に送られる事になっていた。それらのデー タを元にして実験艦「ノーム」を使用しての、改造と微調整が続けられていた。 「一体、何時になったら改造が終わるんだ?」  アレックスが質問した事があるが、フリードは肩をすくめるように答えていた。 「他人が建造した艦ですから、いろいろと面倒なんですよ。例えばある回路があった として、それがどんな働きをしているか理解に苦しむことがあるんですよ。最初から 自分が設計した艦なら、すべてを理解していますから簡単なんですけどね」  その口調には、自分にすべてを任せて戦艦を造らせてくれたら、サラマンダーより 高性能な艦を建造してみせるという自信に満ちているように思えた。しかしいくら天 才科学者といえども、そうそう自由に戦艦を造らせてもらえるものでもなかった。ま ずは予算取りからはじまる面倒な手続きを経なければならないし、開発設計が始まっ ても軍部が口を挟んで、自分の思い通りには設計させてはくれないものだ。そして実 際に戦艦を造るのは造船技術士達であり、設計図通りに出来上がると言う保証もなけ れば、手抜き工事が横行するのは世の常であるからである。 「報告します。全艦、異常ありません。航行に支障なし」 「よし。コースと速度を維持」  時計を確認するカインズ大佐。 「うん。時間通りに着いたようだな」 「時間厳守なのは、第十七艦隊の誇りです。一分一秒の差が勝敗を決定することもあ りますからね」  副官のパティー・クレイダー大尉が誇らしげに答える。 「そうだな……」 「ところで、カインズ大佐……」 「なんだ」 「提督は何を考えておられるのでしょうか。大佐をさしおいて、ウィンザー少佐に第 十七艦隊の全権を委ねるなんて。自身はウィンディーネのオニール大佐と共に別行動 にでたまま。通信統制で連絡すらままならないし」 「まあ、そう憤慨するな。この作戦の立案者の一人であるウィンザー少佐に指揮権を 任せるのが一番妥当ではないか」 「そうはいいますが、何もウィンザー少佐でなくても……だいたい作戦内容が一切秘 密だなんて解せないですよ。一体提督は第六突撃強襲艦部隊や第十一攻撃空母部隊を 率いて何をしようとしているのですか? 第六部隊は、白兵戦用の部隊なんですよ」 「ランドール提督がわざわざ第六部隊を率いる以上、ゲリラ戦を主体とした作戦だと は思うが、それがどんなものかは少佐の胸の内というわけだ」 「ゲリラ戦ですか……しかし相手は巨大な要塞ですよ。一体どんな作戦があるという のでしょうか」 「さあな。俺達には何も知らされていないからな」 「やっぱり、恋人だからですかね」 「ま、どんなことがあっても、絶対裏切ることのない信頼できる部下であることには 間違いないだろうな。後方作戦の指揮をまかせるのは当然だろ」  カインズとて、下位の士官に命令を受けるのは好ましいことではなかった。しかし、 今の自分の地位があるのも、ランドール提督とウィンザー副官の絶妙な作戦バランス の上に成り立っているのも事実であった。大佐への昇進をゴードンに先んじられ、悔 しい思いを胸に抱きながらもやっと大佐へとこぎつけたばかりだ。配下には三万隻の 艦隊を預けられている。 「大佐。今回の作戦が成功すれば、提督は第八師団総司令と少将に昇進することが内 定していると聞きましたが」 「それは確からしい」 「だとすると、今四人いる大佐のうちの誰かが第十七艦隊司令と准将の地位に就くと いうことになりますね」 「ああ……そういうことだな」 「どうせ、腹心のオニール大佐でしょうねえ。順番からいっても」  それは間違いないだろう。  カインズは思ったが、口には出さなかった。やっとゴードンに並んだばかりだとい うのに、という思いがよぎる。ランドールの下で動く限り、その腹心であるゴードン に完全に追い付くことは不可能であろう。
     
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11