第二十章 タルシエン要塞へ
Z  今回の場合もそうだが、ここ一番という作戦にはランドールが原案を考え、ウィン ザーが作戦としてまとめ、ゴードンが実行する、というパターンが繰り返されてきた のである。黄金トリオはそうして昇進街道を突っ走ってきた。そのおこぼれに預かっ て他の者は昇進してきたといって過言ではないだろう。  とはいっても彼とて軍人であり、武勲を上げて出世することは生きがいであり名誉 としていることには変わりがない。士官学校同期の軍人が、せいぜい少佐になりたて だというのに、自分は一足先に大佐となり准将に手が届く距離にいることは、すべて ランドールの配下にあってこその幸運であったのだ。オニールを追い越すことは出来 なくても、名誉ある第十七艦隊の第二準旗艦・高速戦艦ドリアードに坐乗しているだ けでもよしとしなければ。そもそも今回の昇進に際しても、例の軍法会議の一件のこ ともあり、認められることなどない高望みであったはずだ。それがこうして実現した 背景には提督の強い働きかけがあったに違いない。 「シャイニング基地には連邦から搾取した艦船がまだ三万隻ほど残っております。第 十七艦隊を分離分割して新しい新艦隊を増設するという噂はどうでしょうか。そうす ればカインズ大佐にもチャンスがあります。チェスター大佐は退役まじかですし、 コール大佐は艦隊再編成時によそから移籍してきたいわゆるよそものですからね」 「確かに第十七艦隊は大きくなり過ぎていると思う。未配属を含めて十三万隻の艦艇 を所有し、四人もの大佐がいる唯一の艦隊だからな」 「ですから希望は捨てないでいきましょう。私だって昇進はしたいのです。大佐の配 下のすべての将兵にしても」 「そうだな……」  さらにパティーは話題を変えてくる。 「それにしてももう一つ解せないのは、第八占領機甲部隊{メビウス}を首都星トラ ンター他の主要惑星に残してきたことです。第十七艦隊の主要なる占領部隊なしでど うやって要塞を落とすのでしょう」 「メビウスは最新鋭の機動戦艦を旗艦に据えて、補充員の訓練をこなしているという ことだが……司令官には、レイチェル・ウィング少佐がなったばかり」 「表向きは訓練ですが、密かにタルシエンに向かうのではないかとの憶測も飛び交っ ています。占領部隊なしでは要塞は落とせませんからね。第六の白兵戦だけでは不可 能じゃないかと思うのですが。だいたいメビウスはカインズ大佐の配下だったではあ りませんか。それをウィング少佐が……」 「それを言うな。提督にも考えがあるのだろうさ。これまでもそうやって難局を切り 開いてきたのだからな。俺達は命令に従うだけさ」 「納得のいく命令ならいくらでも従いますけどね。一切が極秘なんじゃ……」 「もう一度言っておく。ランドール提督は公正な方だ。すべての将兵に等しく昇進の 機会を与えてくれる。ただその順序があるというだけだ。全員を一度に昇進させるこ とができないからな。オニール大佐は、士官学校時代の模擬戦闘、ミッドウェイ宙域 会戦と提督の躍進の原動力となった活躍をした背景がある。一番に優遇するのは当然 だろう」  その時、パトリシアがフランソワやその他のオペレーター達を従えて艦橋に姿を現 した。丁度交代の時間であった。 「総参謀長殿のお出ましです」  パティーが刺々しい言い方で言った。  憤懣やるかたなしといった表情である。これまでの会話で、次第に感情を高ぶらせ ていたのである。 「艦の状態はいかがですか?」 「全艦異常なしです。敵艦隊の動静にも変化は見られません」 「判りました。カインズ大佐は休憩に入ってください」 「判った」  立ち上がって指揮官を譲るカインズ。 「これより休憩に入ります」  敬礼をし、ゆっくりと歩いて艦橋を退室する。その他のオペレータ達も交代要員と 代わっていく。  カインズに代わって指揮官席に付くパトリシア。  その側に立つ副官のフランソワ。 「目的地到達時間まで十一時間です」  オペレーターが報告する。 「ありがとう」
     
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