第二十章 タルシエン要塞へ
V  アル・サフリエニ宙域タルシエンに浮かぶ要塞。  バーナード星系連邦の共和国同盟への侵略最前線基地にして、その後方に架かる銀 河の橋を守る橋頭堡でもある。  銀河系の中の、太陽系をも含有するオリオン腕とペルセウス腕と呼ばれる渦の間に 存在する航行不能な間隙の中で、唯一の航行可能な領域。それがタルシエンの橋と呼 ばれ、その出口にバーナード星系連邦が建設した巨大な軍事施設がタルシエン要塞で ある。  直径512km、質量7.348x10^21kg(地球質量の1/81,000,000)  *ちなみに太陽系内では、準惑星のケレスが1000kmで他に500km級は2個しかない。 また、スターウォーズのデススターが直径120kmである。*  要塞は重力を発生させるためにゆっくりと自転しており、人々は要塞の内壁にへば り付いている。 重力のほとんどない要塞最中心部には、心臓部とも言うべき動力エ ネルギーを供給する反物質転換炉。  それを囲むようにして収容艦艇最大十二万隻を擁する内郭軍港及び軍需生産施設が あって、要塞の北極と南極にあるドッグベイに通路が繋がっている。  中殻部には軍人や技術者及びその家族軍属を含めて一億二千万人の人々が暮らす居 住区画やそれらを賄う食物・飲料水生産プラント。要塞を統括制御している中枢コン ピューター区画、病院やレクレーションなどの福利厚生施設も揃っている。  そして最外郭には、要塞を守るための砲台が並ぶ戦闘区画となっている。  その主力兵器は、陽子・反陽子対消滅エネルギー砲。中心部の反物質転換炉から放 射状に伸びる粒子加速器によって加速された反陽子一単位と、もう一対の粒子加速か らの陽子二単位とを反応させた際に生ずる対消滅エネルギーを利用し、残渣陽子をさ らに加速射出させる。通常の陽子加速器では得られない超高エネルギー陽子プラズマ 砲である。副産物として多量のダイバリオン粒子が生成されることから、ダイバリオ ン粒子砲とも呼ばれる。  質量のすべてをエネルギー化させる対消滅エネルギー砲に勝るものはない。例えば 核融合反応における極微量の質量欠損だけでも、E=mC^2で導かれる膨大なエネ ルギーが発生するのである。  ちなみに広島に落とされた原爆における質量欠損は、0.7グラムだと言われている。 1グラム(1円玉の重さ)にも満たない質量がすべてエネルギーに変わるだけで、あ れだけの破壊力を見せつけてくれたわけである。  サラマンダー艦に搭載された原子レーザー砲と比較検討がされたりするが(つまり どちらが威力があるかだが)、前述の通りであるし、そもそも巨大要塞砲と、蟻のよ うに小さな戦艦搭載砲とを比べるのには無理がある。  居住区画の一角にある中央コントロール室。  壁面のスクリーンに投影された要塞周辺の映像や、要塞内の状況がリアルタイムに 表示され、それらを操作するオペレーター達が整然と並んでいる。  要塞を統括運営する機能のすべてがここに終結している。 「第十七艦隊の動きに何か変わったことはないか?」 「別にありません。二十八時間前にシャイニング基地から出撃したとの情報からは何 も……」 「だろうな。無線封鎖をして動向をキャッチされないようにしているだろうからな。 それで予定通りこちらに向かったとして到着は何時ごろだ」 「およそ十八時間後だと思われます」 「警戒を怠るなよ」 「判っております」 「それにしても着任そうそう、あのランドール提督とはな。ついてないな」 「はい。あのサラマンダー艦隊かと思うと、身震いが止まりませんよ」 「君は、ランドールを評価するのか?」 「前任の司令官自らが率いた八個艦隊もの軍勢をあっさりと退けた張本人ですからね。 安全な本国でのほほんとしている頭の固い将軍達はともかく、こっち側にいる指揮官 達は、みんな奴とだけはやり合いたくないと願っているのですよ」 「そうか……。君達の気持ちも判らないでもないが、だからと言って逃げているわけ にもいくまい」 「ランドール提督なら、平気で逃げちゃいますけどね」 「奴は例外だ。しかし奴とて闇雲に逃げ回っているわけではないだろう」 「そうです。転んでもただ起きるような奴ではありません。いつも必ず罠を仕掛けて あります。それに引っかかって幾人の提督が泣かされたか。前任の司令官なんか、捕 虜にされるし一個艦隊を搾取されしで面目丸潰れ、もはや本国に帰りたくても帰れな いでしょう。捲土重来はあり得ず、全艦玉砕すべきだったというのが本国の一致した 意見らしいです」 「らしいな。罠を仕掛けたりする卑怯な奴として思われているが、罠に引っかかる方 が不注意なのであって、それも立派な戦術なのだがな」 「今回はどんな罠を仕掛けてくるのでしょうか? たかが一個艦隊だけで、この要塞 を攻略など不可能ですからね」 「十分以上の用心をするに越したことはないだろう」 「考えられるだけのすべての防御策を施した方がいいでしょう」
参考資料  イタリア、シチリア島の南約80kmのところに、マルタ島という島がある。  1902年、ヴァレッタ近郊の アル・サフリエニで建設労働者が偶然、地下墳墓を 発見した。その後、1907年に組織的な発掘が始まり、 タルシエン神殿が発見され た。1980年にはユネスコの世界遺産リストに登録されている。
     
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