第十九章 シャイニング基地攻防戦
XW  カインズの次にレイチェルを司令室に呼び寄せたアレックス 「君の配下にすることにした第八占領機甲部隊メビウスのことなのだが、極秘の任務 を与えようと思っている」 「極秘任務ですか?」 「何度も言うようにトランターはいずれ陥落する。その後のためのレジスタンス活動 が任務だ」 「レジスタンスですか? メビウスは当地に残るとして、他の艦隊はいかがなされる のですか」 「もちろん、タルシエン要塞を本拠とする解放軍を組織して、徹底交戦を続けるつも りだ。たとえ連邦に対して敗北し占領されようとも、いずれ反旗を掲げ立ち上がる将 兵や民衆が出て来る。そういった人々を解放軍に吸収しつつ、機が熟するのを待って 持てる全軍を持って反攻作戦にでる」 「そのためにもトランターに残って内部攪乱を引き起こし、占領軍の情報を逸早くと らえて解放軍に伝える。それがメビウスに与えられた任務というわけですか」 「その通り。とりあえずはモビールアーマー隊の強化訓練という名目でトランターに 残り、陥落後のレジスタンス部隊の主力として働いてもらいたい。どうだやってくれ るか」 「一つお伺いしてよろしいですか?」 「どうぞ」 「提督は、あたしをメビウスの司令官に任命し、極秘任務をお与えになる、その真意 をお伺いしたいですわ」 「レジスタンス活動を継続するとなると、補給物資の調達と運搬をはじめとして、隊 員の士気を維持し指導する能力と人望、すべてに困難が伴うのは必定である状況の中 で、それらをすべてクリアーできるのは君しかいない。主計科主任として数々の隊員 達の要望をそつなく処理、その信頼と人気は艦隊随一のものだ。私が信用し全権を委 ねられる人物は他にはいない」 「そこまで信頼されているとなると、お引き受けするしかありませんね」 「そういってくれるとありがたい。早速トランターへ向かってくれないか」 「直ちにですか? タルシエン要塞攻略はいかがなされるおつもりですか」 「いや。タルシエン要塞は、メビウスなしで攻略する」 「例の作戦が発動する時がついにきたというところですか。ジュビロとは?」 「軍法会議のその日に、早速向こうからアクセスがあったよ。作戦発動は伝えておい た」 「どう言ってましたか?」 「わかった。と一言だった」 「あの人らしいわね」 「それともう一つ、トランター本星アスタバ造船所において、新造の機動戦艦が完成 した」 「機動戦艦ですか?」 「水中潜航能力をも備えた究極の対空防衛用戦艦だ。モビールアーマー八機と専用の カタパルト二基を装備、艦載機は三十六機搭載可能だ。主砲には原子レーザー砲の改 良型を装備。最新のCIWS(近接防御武器システム)を搭載し、大気圏戦闘に特化 した究極の戦闘艦だ。開発設計者はフリード・ケイスンだ。推して測ることもないだ ろう」 「そうですね。艦名は?」 「ミネルバだ。いい名前だろう」 「ローマ神話に登場する女神ですね」  ※ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸をつかさどる女神で   あるが、戦略の女神でもありしばしな英雄たちに戦術を指示した。さらに機織り   の神でもあり、アテナイ市の守護神で、そこのパルテノン神殿は彼女の聖域とし   て知られる。長いキトーンを着て、頭には兜をかぶり、胸にはメデューサの頭を   飾りとしてつけたアイギスを着ている。手には槍、および勝利の女神ニーケをか   かえている姿が多い。知恵を表すふくろうが聖鳥である。 「まあな。至急アスタバへ赴いてこれを受領したまえ」 「乗組員の手配は?」 「現在、士官学校教習生がミネルバに搭乗して実習訓練を開始しているはずだ。X デーと同時に彼らを繰り上げ卒業というかたちで自動的に実戦配備させることになる。 教習生と熟練者が半々というところかな」 「それって……」 「本来首都星トランターは第一艦隊の守備範囲だ。その内で第十七艦隊が行動を起こ すには、実戦訓練という名目でもない限り許されないことなのだからな」 「仕方ありませんねえ……それで教官はどなたが」 「去年スベリニアン校舎を勇退なされたセキセドル前校長だ。事情を説明して特別に お願いしたところ快く引き受けてくだされた」 「セキセドル教官なら心強いですわね。なにせ士官学校時代の提督を退学させずに辛 抱なされて、模擬戦闘の指揮官に徴用するという先見の明をそなえていらっしゃった お方ですからね。安心して任せられますわ」 「艦長には、フランソワ・クレール大尉を任官させるつもりだ」 「フランソワですか……」 「性格的には問題が多いかもしれないが、作戦指揮能力は人並み以上のものを備えて いるし、彼女にとっては佐官昇進試験も兼ねているのだ」 「どちらにしても当分は眠れない夜が続きそうですね」 「なにはともあれ、Xデー以降のメビウスの全権は、すべて君の判断に委ねる」 「すべてですか?」 「そう、すべてだ」 「わかりました」 第十九章 了
     ⇒第二十章
↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v

小説・詩ランキング

11