第二十章 タルシエン要塞へ
I  シャイニング軌道上に待機するサラマンダー。  接近する上級士官用シャトルがあった。 「数日しか離れていないというのに、久しぶりって感じだな」  感慨深げな言葉を漏らすアレックス。  軍法会議への出頭には、護送駆逐艦が使われた。一時的な身分の凍結が行われて、 サラマンダーには乗れなかったからである。 「みんなも寂しがっていましたよ」  アレックスが本星に行っている間の、サラマンダーの指揮を委ねられていたフラン ソワが言った。本星でのもろもろの用事を済ませたアレックスが、サラマンダーに戻 るとの報を受けて出迎えに来ていたのである。 「一番寂しかったのは君じゃないのか?」 「もう……提督ったら」  赤くなるフランソワ。  もちろんそれは、パトリシアのことを言っていた。  サラマンダーのシャトル進入口が開いて、静かに帰還するシャトル。 「提督。ご帰還おめでとうございます」  整備員や甲板員などがシャトルの周りに集まってきた。 「一時はどうなることかと思いましたよ」 「これからもよろしくお願いします」 「提督の行かれる所なら、どこへなりともお供いたしますよ」  と、口々にアレックスの帰還を祝福した。 「ありがとうみんな。こちらこそ世話になる」  艦橋へ直通の昇降エレベーターに乗る二人。 「タルシエン要塞攻略を命じられたこと、艦橋のみんなに伝わっています」 「どうせジェシカが喋ったのだろう」 「ええ、まあ……」  手続きで帰還が遅れるアレックスより、一足先にシャイニング基地に戻り、サラマ ンダーを訪れてパトリシアに報告、ついでに艦橋のみんなにも披露したというところ か。  サラマンダー艦橋にアレックスが入室してくる。  すかさず敬礼をほどこしてから、その手を拍手に変えて無事な帰還を祝うオペレー ター達。 「お帰りなさいませ」 「おめでとうございます」 「みんなには心配をかけたな。軍法会議は何とかお咎めなしで解放された。君達のこ とも無罪放免だ。もっとも条件付だがな」  そういうとオペレーター達が笑顔で答える。 「伺ってます。タルシエン要塞攻略を命じられたとか。でもご安心ください。私達ち っとも不服じゃないですから。提督とご一緒ならどこへなりともお供いたします」 「そうか……そう言ってくれるとありがたい。それから……リンダ」 「は、はい!」  元気良く返事をするリンダ。 「君には特に世話になったようだ。感謝する」 「いいえ。どういたしまして。当然のことをしたまでですよ」 「うん。今後とも、その調子で頼む」 「はい!」  ゆっくりと指揮官席に腰を降ろすアレックス。 「やはり、ここが一番落ち着くな」  シャイニング基地やカラカス基地の司令官オフィスではなく、サラマンダー艦橋の 指揮官席。独立遊撃艦隊の創設当時から、指揮を執り続けたこの場所が一番。自分を 信じて付き従ってくれるオペレーター達がいる。目の前のスクリーンには周囲を取り 巻く配下の艦艇群が、自分の指揮命令を待って静かに待機している。  自分を取り巻いている運命に身を委ね、自由な気運に育まれた環境にある。 「ところで監察官はどうなった?」 「本星に連れて行かれたようです」  リンダが答える。 「そうか……」 「どうせ、ニールセンの奴が手を回して無罪放免されるかも知れませんけどね」 「それとも始末されるかだ」 「ありえますね」 「後任の監察官は誰が選ばれるのでしょう?」 「まあどうせ、ニールセンの息の掛かったのが来るだろうな」 「仕方ありませんね」
     
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