第十四章 アクティウム海域会戦
Ⅵ  ウィンディーネ艦隊が前に突出してゆく。  続いて本隊にも命令を下す。 「本隊も動くぞ。全艦全速前進だ!」 「御意!」  ついに皇太子派の全軍も進軍を始めた。  ウィンディーネ艦隊の猛烈な攻撃により、摂政派軍の中央が崩されてゆく。左右 に分断され指揮系統も混乱を始めていた。  やがて中央突破に成功したウィンディーネ艦隊が反転攻撃を開始する。  分断されて混乱の極みに達した 「ウィンディーネに打電! 敵の右翼に砲撃を集中させよ!」  通信士が打電する。 「了解! ウィンディーネは敵右翼に集中攻撃せよ!」  左翼を相手にせず、右翼だけに集中すれば、対する艦数はほぼ互角となる。  そして迂回していたマーガレット皇女艦隊が到着し、側面攻撃を開始した。  戦闘機一機は戦艦一隻に相当する。  ここに至って、艦数で皇太子派軍は俄然優勢となり、右翼の艦隊は壊滅に至った。 「これ以上、無駄な血を流すこともないだろう。投降を呼びかけてくれないか」 「御意!」  残された左翼も、完全包囲される格好となり、アレックスの投降の呼びかけに応 じて白旗を揚げた。 「殿下、皇太子派軍の勝利です」  誇らしげに勝利宣言を発表するジュリエッタ皇女だった。  摂政派軍敗北の報が、アルタミラ宮殿に届いた。 「我が軍が敗北しただと?」  青ざめるロベスピエール公爵だが、玉座にあるロベール皇帝は何のこと? とい った表情で首を傾げている。  皇太子派軍が帝国本星に向けて進撃を開始したのを受けて、公爵は自国のウェセ ックス公国へと落ち延びていった。  エリザベス皇女は、事態の収拾を図るために宮殿に留まることを決断し、アレク サンダー皇太子到着の前に、やるべき事を次々と行った。  まずは摂政派の要人に対して、身の振り方の確認をし、ニューゲート監獄に収監 されていた皇太子派の要人達を解放した。  国民を虐げていた憲兵組織の解散。  閉鎖されていた皇室議会の開場。  空港・鉄道などの公共機関の解放。  報道機関の検閲廃止と自由化など。  そして何よりの衝撃は、ロベール皇帝の廃嫡を宣言したのである。  退位ではなく、そもそも即位がなかったとしたのだ。そうでなければ、帝位を奪 った者として処断される可能性もあったからである。  数日後、アレックスが二皇女を引き連れてアルタミラ宮殿に入った。 「アレクサンダー皇太子殿下、マーガレット皇女様、ジュリエッタ皇女様、ご入 来!」  近衛兵が、謁見の間に通じる重い扉を開けながら宣言する。  招聘された大臣や上級貴族、そして高級官僚の立ち並ぶ謁見の間の真紅のカーペ ットの上を歩いて玉座に向かう三人。  アレックスが目の前を通る度に、深々と頭を垂れる大臣達。  中には、摂政派に属していた者達もいたが、転身してもはや異議を訴える者は一 人もいない。  壇上への数段の階段を上り、玉座の前に立つアレックス。  かつてロベール皇帝が着座していたが、廃嫡宣言によって空席となっている。  玉座の脇で深々と頭を下げて、アレックスの着座を促しているエリザベス皇女。  謁見の間の参列者を嘗め回すように見渡してから、静かに着席した。 「皇太子殿下、万歳!」  マーガレットが高らかに唱える。 「皇太子殿下、万歳!」  釣られる様に参列者達も続いて唱えだした。
     
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