第十四章 アクティウム海域会戦
V  戦況は一進一退を続けていたが、アレックスは冷静沈着であった。 「第二戦線の方はどうかな? そろそろ戦端が開始される頃だと思うが……」  第二戦線という名称で有名なのは、対独戦争における米英軍のノルマンディー上 陸作戦である。当時独軍は東部戦線(ソ連方面)に兵力を集中していたが、ソ連は その勢力を分散させるよう同盟国である米英に背後からの攻撃を要請した。  その第二戦線。  カスバート・コリングウッド提督率いる部隊は、摂政派軍の側面攻撃のために船 の墓場を迂回しつつ進軍していた。  突然、警報が鳴り響く。 「前方に戦闘機多数出現!」 「戦闘機だと?」 「後方に空母アークロイヤルを確認しました」 「敵艦隊は、第二皇女マーガレット様のもよう」 「馬鹿な! 敵の方が数が少ないというのに、勢力を分散させてこちらに回ってく るなんてあり得ない! 自滅を早めるだけじゃないか」  勢力分散など兵力に余裕のある時というのが提督の持論のようだ。  数万機の戦闘機群に取り囲まれる別動隊。  戦列艦を主体としているだけに、艦載機を搭載した空母など一隻もいなかった。  護衛の戦闘機なしでは、いかに火力のある戦列艦とて歯が立たなかった。  空母アークロイヤル艦橋。 「やはり別動隊が動いていたようですね」  という呟きに、司令長官のアーネスト・グレイブス提督が応答する。 「はい。殿下の先見の明は確かでした」 「さすが殿下というしかありませんね」 「どうやら勝利は時間の問題です」 「敵将は誰か分かりますか?」 「カスバート・コリングウッド提督のようです」 「同じ帝国軍です。降伏を進言してください」 「かしこまりました」  それから数時間後、カスバート・コリングウッド提督は降伏し、別動隊は進軍を 停止した。あまつさえ、説得に応じた従順な指揮官達がマーガレット皇女の配下に 入ったのである。  そして今度は、摂政派軍への側面攻撃に向けての逆進行を開始した。  第二戦線からの報告を受けたアレックス。 「そうか想定通りだったな。それに比べてこちらは大変だ……」  皇太子派軍は第二皇女艦隊六十万隻が抜けて、百四十万隻で戦っていた。対する 摂政派軍は戦列艦が抜けたとしても総勢二百六十万隻と、相変わらずの圧倒的優勢 である。  第二皇女が戦域に到着して側面攻撃を開始するまでは持ち堪えられそうにない。 「そろそろ頃合いかな……」  戦闘が順調に続いて、帝国の将兵たちも戦闘慣れしてくる頃だった。 「ウィンディーネに突撃命令を出せ! 敵陣に飛び込んで中央から分断せよ!」  その命令を、パトリシアがウィンディーネのゴードンに伝える。 「閣下! 提督から突撃命令が出ました!」 「よおし! 待っていたぞ、全艦突撃開始せよ!」  立ち上がって下礼するゴードン。 「今度こそ、汚名を晴らす好機である。与えられたチャンスを逃すことなく、ウィ ンディーネの底力を見せつけてやれ!」  ゴードンの奮起に、 「おおお!」  と、歓声を上げるオペレーター達。
   
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