第十四章 アクティウム海域会戦
Ⅳ  およそ八時間後、カスバート・コリングウッド提督率いる摂政派の艦隊がアクテ ィウム海域にたどり着いた。 「前方に感あり!」 「敵艦隊多数!」 「警報鳴らせ!」 「全艦戦闘態勢を取れ!」  矢継ぎ早に指令が飛び交う。  戦端を開く前に、総司令官のコリングウッド提督は、各艦隊司令官を集めての作 戦会議を開いていた。 「兼ねてよりの計画通りに、本隊から戦列艦を主体とした部隊を分離編成、別動隊 として船の墓場を迂回、敵の側面から奇襲攻撃を敢行する」  戦列艦とは、太古の海戦で主流だった艦の側面に多数の大砲を並べた艦種である。  海で出会った戦艦同士が側面を向けあって、大砲を打ち合ったという戦法向けに 開発されたものだ。  現代戦ではほとんど姿を消したが、紡錘陣形による敵陣中央突破戦法には絶大な る効果を期待できるので、最後の切り札として艦隊編成に加えている。  今回の作戦では、その戦列艦を主力とした艦艇を集めて一個艦隊として再編成し て奇襲攻撃部隊を派遣するということだ。 「戦列艦ヴィル・デ・パリスから私が指揮する。本隊の指揮は、サー・ジョン・ ムーア提督に任せる」  知ってか知らずか、アレックスがテルモピューレ会戦で使った回り込み作戦を実 行しようとしているようだ。  本隊より別れて船の墓場迂回ルートへと向かう別動隊。  その行方を見送った戦艦レゾリューション座乗のサー・ジョン・ムーア提督は、 本隊に対して指令を下した。 「よおし! 戦端を開くぞ! 戦闘開始せよ!」  副長が応える。 「全艦全速前進!」  迎え撃つ皇太子派軍旗艦インヴィンシブル。  今なお、アレックスは旗艦をサラマンダーに移していなかった。  サラマンダーは共和国同盟軍の旗艦である。  この戦いが、銀河帝国内紛であり皇太子派軍として挙兵している以上、帝国旗艦 としての立ち位置が必要であると考えてのことであった。  サラマンダー以下の旗艦艦隊の指揮は、スザンナ・ベンソンに委ねていた。 「摂政派軍が動き出しました。こちらも前進しますか?」 「いや、動かないでよい。この位置のまま戦う。FPL{最終防御砲撃線}を動か すのは面倒だからな」  帝国艦隊は未だ戦闘未熟な艦艇が多いので、いちいち指揮官が命令を下すことな く、各艦の艦長の判断のみで攻撃を開始・続行できるようにFPLを設定していた。  最終防護射撃の要点は、敵艦を個別に狙って撃つのではなく、事前に設定された 地域に敵を発見、あるいは敵の気配を察知したら、視界のいかんにかかわらず、そ の場所に徹底的に大量のミサイルや砲撃を加えて、そこに存在するであろう敵艦が 確実に撃沈するだけの火力を投入することで、確率論的に敵艦を殲滅することを目 標としている所にある。 「目標戦艦を、先頭を行く戦艦に設定。射程内に入り次第、戦闘開始!」  先頭戦艦を確認して、艦名を添えて復唱するジュリエッタ皇女。 「目標戦艦を戦艦デヴァステーションに設定せよ!」 「了解! 目標戦艦、戦艦デヴァステーションに設定」
     
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