第十四章 アクティウム海域会戦
Ⅲ  巡洋戦艦インビンシブル艦橋。  貴賓席に腰を降ろし、艦隊の指揮を執るアレックスことアレクサンダー皇太子。  傍らにはジュリエッタ皇女が、副官よろしく控えている。  帝国艦隊を指揮するには、サラマンダーにいるより都合が良いと判断してのこと である。攻撃空母のアークロイヤルは防御面で難があるので、万が一を考えてより 安全な方をとの皇女達の勧めであった。 「摂政派の艦隊が動き出しました」  ジュリエッタが報告する。 「やっとこさか。双方の予想進撃ルートを出してみてくれ」 「かしこまりました」  正面スクリーンに、広大な星図が表示され、双方の艦隊が進むルートが表示され た。  アルビエール侯国から帝国本国に向かうには、銀河渦状腕の縁に沿っていくこと になる。かつて銀河開拓時代に、銀河の腕に沿って通ったシルクロードみたいなも のだ。  途中には、 銀河渦状腕間隙の一部が支流のように枝分かれして帝国内に食い込 んでいる宙域がある。いわば流れる川の側にできた三日月湖みたいなものであり、 ここに侵入した艦艇は航行不能になる。船の墓場と化しており、かつては多くの艦 艇が漂流していた。 「双方が遭遇するのは、アクティウム海域と思われます。船の墓場を回り込むよう に進む難所となっております」 「船の墓場か……。言いえて妙だな」 「この宙域に入り込むと、確実に動けなくなりますから」 「そうだな……」  しばし考え込んでいたが、 「このアクティウム海域を決戦場とする!」  と、宣言した。 「御意!」  姿勢を正して、全艦に下礼するジュリエッタ皇女。 「進路をアクティウム海域にとれ! 全速前進!」  その頃、摂政派軍は足並み揃わないまま、よろよろと進軍していた。  カスバート・コリングウッド提督は頭を悩ます。  かつて第一次内紛では、摂政派のジュリエッタ皇女について戦った味方同士であ った。  ところが皇太子のまさかのご帰還以降は、皇女達は皇太子派に転身。袂を分かつ こととなった。  身の振り方を考える間もなく公爵が反旗を翻(ひるがえ)して、気が付けば自ら は摂政派に取り込まれ、総大将に祭り上げられてしまったのだ。  コリングウッド提督と同じ思いをしている将兵も数多く存在しており、それがゆ えに士気の低迷となって表れていた。  一糸乱れぬ行軍など不可能な状態なのである。  相手は皇太子かつ共和国同盟の英雄であり、味方の将兵に願わくば敵前逃亡など 起こしてくれるなという心境に近かった。  一足早くアクティウム海域に到達した皇太子派軍。 「敵さんはまだのようだな」 「そのようです。さらに先に進撃も可能ですが?」 「いや、ここで良い。ここで布陣しよう」 「かしこまりました」  向き直って、 「全艦停止せよ!」  命令を下す。 「全艦停止!」  復唱がなされて、静かに艦隊は停止した。 「敵艦隊の到着予定時間は?」 「八時間ほどだと推定されます」 「そうか……。総員に交代で休息を取らせよう」 「では、三時間ずつで交代させます」 「よろしく頼む」
     
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