第四章 皇位継承の証
I  首都星アルデランのアルタミラ宮殿。  謁見の間に居並ぶ大臣・将軍達の表情は一様に重苦しい。  マーガレット皇女が、摂政であるエリザベス皇女の裁定を受けていた。 「マーガレットよ。我が帝国の治安を乱し、テロなどの破壊行為なども誘発したことは 悪しき重罪である。事の次第は皇室議会において処遇を決定することになる。追って裁 定が下るまで、自室にて謹慎を命じる」  うやうやしく頭を下げて処分を承諾するマーガレット皇女。  そしてくるりと翻り姿勢を正して自室へと向かい始め、その後を侍女が従った。警備 兵が二人その後ろから付いてくるが、連行するというようなことはしない。皇女として の誇りに委ねられた一幕であった。  マーガレットが退室し、続いてアレックスに対する労いの言葉が、エリザベスより発 せられた。 「今回の任務。よくぞ無事にマーガレットを連れてこられた。感謝の言葉もないくらい である。その功績を讃えて、中将待遇で銀河帝国特別客員提督の地位を与え、この謁見 の間における列席を許し、貴下の二千隻の艦船に対して、帝国内での自由行動を認め る」  ほうっ。  という感嘆の声が、将軍達の間から沸き起こった。  貴賓室。  謁見を終えたアレックスが、応接セットに腰掛けてパトリシアと会談している。  アレックスがマーガレット保護作戦に出撃している間、パトリシアはこの部屋に留め 置かれていた。  いわゆる人質というやつで、大臣達からの要望であったと言われる。それでも世話係 として侍女が二人付けられたのは皇女の計らいらしい。 「艦隊の帝国内自由行動が認められたので、スザンナ達には軍事ステーションから、最 寄の惑星タランでの半舷休息を与えることにした」 「休暇と言っても先立つものが必要でしょう?」 「ははは、それなら心配はいらない。帝国軍から一人ひとりに【おこづかい】が支給さ れたよ。内乱を鎮圧した感謝の気持ちらしいが……。本来なら彼らが成すべき事だった からな」 「至れり尽くせりですね」 「しかし、これからが正念場だ。帝国側との交渉の席がやっと設置されたというところ だな。まだまだ先は遠いよ」 「そうですね」  事態は好転したとはいえ、解放戦線との協定に結び付けるには、多くの障害を乗り越 えなければならない。特に問題なのは、あの頭の固い大臣達である。あれほど保守的に 凝り固まった役人達を説得するのは、並大抵の苦労では済まないだろう。 「ジュリエッタ皇女様がお見えになりました」  侍女が来訪者を告げた。 「お通ししてください」  アレックスが答えると、侍女は重厚な扉を大きく開いて、ジュリエッタ皇女を迎え入 れた。 「宮殿の住み心地は、いかがですか?」 「はい。侍女の方も付けて頂いて、至れり尽くせりで感謝致しております。十二分に満 足しております」 「それは結構です。何か必要なものがございましたら、何なりと侍女にお申し付けくだ さい」 「ありがとうございます」 「ところで明晩に戦勝祝賀のパーティーが開催されることが決まりました。つきまして は提督にもぜひ参加されますよう、お誘いに参りました」 「戦勝祝賀ですか……」 「内乱が鎮圧されたことを受けて、ウェセックス公が主催されます。その功労者である ランドール提督にもお誘いがかかったのです」 「しかし、私のような門外漢が参加してよろしいのでしょうか?」 「大丈夫です。パーティーには高級軍人も招待されておりまして、客員中将に召された のですから、参加の資格はあります」 「そうですか……。判りました、慎んでお受けいたします」  断る理由はなかった。
     
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