第九章・犯人を探せ
V  その喫茶室。  室内を静かな曲が流れている。  先程立ち寄った放送局から流れているのだろう。  もちろん艦内放送を聞く事ができるのは、居住区内だけである。こうした店内や病 院そして乗員宿房である。  検屍報告書に目を通しているコレット。  死亡推定時刻は、十二時三十分から十三時の間。  死因は、ロープによる頸動脈圧迫からくる脳酸欠死。 「まあ、このあたりは順当な鑑定ね。あたしでも判断できるわ」  首筋の紫斑と現状のロープ位置からの所見は、死後に遺体の位置が変わったものと 認める。  膝の擦過傷における所見は、死後三十分にできたものと認める。創傷からの体液の 付着痕、ジムのいずこにからも発見されず。  以上の所見から、いずこかで事故死もしくは殺害された後に、移送されてきたもの と認める。  報告書は、現時点で殺人とは断定するには早計ではあるが、死体遺棄と証拠隠蔽工 作は明らかである。結論は、司法解剖に委ねると結んであった。 「結局、殺人かどうかは司法解剖しないと判らないか……。しかし死体遺棄は明らか なので、犯罪事件として捜査できるわね」  と、次ぎなる問題は……。  被害者の死亡場所と死亡理由、そして遺体を運ばなければならなかった理由と、そ の運搬方法である。それが殺人なら、殺害動機も考えなければならない。 「気分が悪いと言っていたらしいし、心臓の持病もある。一人こっそり宿房を抜け出 すことは考えられない。死んだ場所は宿房に違いない。首筋の紫斑から心臓麻痺かな んかで死んだのじゃない。これは明らかに絞首による殺人だわ。おそらく、誰もいな いと思って宿房に入ってきた犯人が、ミシェールに気づかれて殺害したに違いない。 何のために犯人は宿房に入ったか……。これが動機ね。そしてこのままではまずいと 判断して遺体をアスレチックまで運んだ。が、その方法が判らない」  遺体を運ぶとなると、女手一人ではとうていここからアスレチックジムまで運ぶの は不可能だろう。 「共犯者がいるわね……」  喫茶室を出て、再び捜査を再会するこにする。 「そうね、殺害当時の放送局員に尋問してみるか」  コレットは、その中のカテリーナ・バレンタイン少尉に興味があった。  何よりもミシェールの第一発見者であり、同じ放送局員で同室でもある。  交代時間になっても来ないミシェールを探していたと証言している。当然宿房にも 戻っているだろうし、そこで死んでいるミシェールを見たか、或は自ら殺人に及んだ 可能性も示唆できる。ミシェールとは最も接点の多い容疑者といえる。  容疑者。そう、容疑者だ。  コレットの直感が騒いでいた。  カテリーナは引っ越した先の宿房にいた。 「お休みのところ申し訳ありません。ご協力お願いします」 「構いませんよ。どうぞ、何でも聞いてください」 「では率直にお尋ねします。十二時十五分からミシェールを発見するまでの間、どち らにおられましたか?」 「もちろん放送局にいましたよ。十二時四十五分頃に、交代のミシェールが来ないの で探しに出ました」 「放送中にですか?」 「はい。タイムキーパーとしては、終了十五分くらい前になるとやることがないんで す。それで他の三人の許しを得て探しにでました」 「どこを探しまわりましたか」 「もちろん一番に部屋に戻りました。そこにいないので、喫茶室とか美容室とか回っ て最後にアスレチックジムです」 「そこでミシェールが死んでいるのに遭遇したわけですね」 「そうです」 「もう一度確認しますが、他に誰もいなかったのですね」 「はい。いませんでした」 「わかりました。また何かありましたら、お聞きいたします。ありがとうございまし た」  取り敢えずカテリーナへの尋問を終了して、次の証人をあたることにする。
     
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