第九章・コレット・サブリナ 犯人を探せ
U  IDカードを受け取って胸ポケットにしまうコレット。 「ウィンザー大尉にお願いしまして、ミシェール・ライカー少尉のいた部屋とアスレ チックジムを、当面の間立ち入り禁止にしていただきました。よろしいですね」 「ああ、構わないだろう。運動嫌いな者も多いと聞くから、喜んでいる人間の方が多 いかも知れないしな」 「恐れ入ります。それからウィンザー中尉にお聞きしたいことがあるのですが、よろ しいですか?」  アレックスが頷いているのを確認してから、パトリシアが口を開いた。 「わたしに何を?」 「中尉は、ライカー少尉とは士官学校では、仲が良かったとお聞きしましたが、間違 いありませんか?」 「はい。その通りです」 「ミシェールの性格面についてお聞きします」 「どうぞ」 「ミシェールはいつも誰かと一緒にいたというのは事実ですか?」 「はい。ミシェールは決して一人で行動するような性格ではありません。いつも必ず 仲良しグループの中の誰かと行動を共にしていました。それが宿房を一人抜け出して 自主トレをしていたなんて到底考えられません。寂しがりやでたいがい誰かのそばに いましたね」 「彼氏がいたという話しもありますが」 「そんなことまで証言したんですか? しようがないですねえ……」 「いかがですか? 痴情のもつれから彼氏に殺害されたともとれますからね」 「ミシェールは彼氏のことについては、ちっとも話してくれませんでした。相手の男 性が、交際していることをあまり公にはしたくなかったようです。それで黙っていた ようです」 「関係はうまくいっていなかったとかは?」 「表情がすぐ顔に現われる性格でしたからね、交際にひびでも入っていればすぐに判 ります。今のところ順調だったと思います」 「そうですか。他に特徴的なことはありませんか?」 「スポーツに関してですけど、何かというとすぐ疲れたと休んでいました。ずる休み ではなくて、昔から心臓が弱かったんです。ですから、事件直前に食事も取らずに部 屋にいたのは、そのせいだと思います」 「心臓が弱かったのですか……。それでよく、入隊検査にパスできましたね」 「ぎりぎりの健康状態でしたが、何とかパスできました」 「とすると、自主トレでアスレチックジムに行ったとは考えられませんね」 「当然です。心臓の持病があるために、必ず誰かと一緒でした。一人きりの時に、発 作が起きたらと心配していたからです」 「良く判りました」  メモ帳に要件を記入しているコレット。普通の乗員なら司令官の目前で無礼な行為 なのだろうが、コレットは直属の部下ではないし、捜査特務権があるので許される。 「ところで中佐殿はどうですか、何か心当たりなところはありませんでしたか?」 「うーん。自分としては全然見当がつかないんだ。女性士官すべてに目配りしている 余裕はないからね。女性士官の宿舎のある区域は男子禁制になっているしね。ま、自 分なりに考えられるとしたら……カラカス基地を落として敵艦を搾取したのだが、そ れらを使役するために多数の乗員を補充した。その中に敵のスパイが乗り込んでいて、 ライカー少尉がそれに気付いたところを口封じされたというのは?」 「それは十分ありえるといえますが、憶測で物事を判断するわけにはいきません。今 のところ何の根拠もありませんからね。まあ、一応参考意見として考慮にいれておき ます」  とはいいつつも、コレットはアレックスの意見にはそれほどの感心を抱いていなか った。  例えれば真犯人が捜査を混乱させるために、わざとそれらしい状況解説をすること はよくあることだ。コレットにとっては、この同盟の英雄でさえ、容疑者として候補 に挙げていたのである。  関係者すべてが容疑者である。  すべての者を疑ってかかることは、捜査の基本中の基本である。  その中から、白と断定できたものを消していって、最後に残った者が犯人である。 「一応艦隊規則にある通り、遺体はカラカス基地で降ろされる。捜査期限はカラカス 入港までだ。それまでに犯人を挙げてくれたまえ」 「かしこまりました。では、捜査を開始します」  敬礼して、司令室を退室するコレット。 「さてと、次はどこを捜査をはじめましょうか……って、まずは検屍報告書に目を通 してみますか」  階下に喫茶室があるから、そこで見る事にする。
     
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