続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス
(四)空へ  ウィンドウを隔てての再会。  絵利香が何か言っているようだが、防音ガラスらしく聞こえない。  突然助手席の窓が開いて何かを握った手がでてきた。  自動拳銃である。  銃口はこちらを向いている。  危険を感じ取った慎二はすかさず後退して車の真後ろに回った。 「危ねえなあ。これじゃ、完璧に人質じゃないか」  どうしようもなかった。  相手が拳銃を持っているとなると、絵利香は人質に取られているといってよかった。  ただ追いかけるだけである。  桶川飛行場が近づいている。 「もっと飛ばせないの? このままじゃ逃げられちゃう」 「しようがねえだろ、タンデムで走ってるんだ。そうそう飛ばせるか!」  梓はポシェットに入れていた携帯を取り出した。  ボタンを操作すると、地図が現れて二つの光点が表示された。  ファントムVIの端末で表示されたデータを、この携帯でも受信できるようになって いた。 「時間差にして約二分……」  カーチェイスにおいて二分の差は致命的である。  空でも飛ばない限り追い上げることはほとんど不可能である。  いつかの峠バトルのようにはいかない。  それでも少しずつではあるが、距離を縮めてはいた。  相手にアクシデントが発生するのを期待するだけである。  上空にヘリコプターが現れた。  それもただのヘリではない。  AH-1Z Viper と呼ばれる米軍海兵隊などに配備された最新鋭戦闘ヘリである。  これを所持しているもう一つの組織がある。  真条寺家私設軍隊とも呼ばれるAFCセキュリティーシステムズ所属の傭兵部隊であ る。かの研究所に侵入し逃亡しようとしたスパイを狙撃した、あのスナイパーの所属部 隊である。  戦闘ヘリは明らかに桶川飛行場へと向かっていた。 「麗華さんが手配したのかしら?」  これで対等に渡り合えることができる。  桶川飛行場に近づいてきた。  すると一機の飛行機が飛び立ってゆく。  おそらく絵利香を乗せた誘拐犯達が乗り込んでいるのだろう。  やはり間に合わなかった。  とにかく急ぐ。  桶川飛行場に着くと、先の戦闘ヘリが待機していた。  誘拐犯の飛行機とすれ違った際に、撃墜してくれればと一瞬思ったが、絵利香が搭乗 している限りそれは出来ない相談である。  いつでも発進できるようにエンジンをかけたままにしている戦闘ヘリから降りてきた 者がいた。  竜崎麗華だった。 「いつでも追跡可能です」 「すぐに追いかけてください」  戦闘ヘリに乗り込む梓と麗華、そして慎二も。  エンジンの回転数が上がって、轟音と共に戦闘ヘリは宙に浮かび上がった。 「これを耳に当ててください」  渡されたのは騒音防止兼用の通話装置を備えたヘッドウォンだった。  戦闘ヘリの中では騒音がうるさくて生の会話など不可能であるからだ。  耳に宛がうと、スピーカーから麗華の声が聞こえてきた。 「絵利香さまを乗せた飛行機は海上へと向かっているようです」 「急いで! 見失わないで」  梓にパイロットが応答する。 「了解! まかせてください」  カーチェイスからエアレースに変わっての追跡劇が始まる。
     
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