梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件
(十七)戦い済んで……  やがて炎上する敵駆逐艦のそばに浮上する潜水艦。  司令塔甲板に姿を現わす艦長と見張り要員。 『まだしつこく浮かんでいるな。魚雷長、一発ぶち込んでやれ』 『了解』 『撃墜されたパイロットのものと思われる救難信号がいくつか出ています』 『うむ。救助艇を出して助けてやれ。海賊は放っておいていいぞ』 『了解。救助艇を出して、救助に向かいます』  数分後、艦首より二筋の軌跡が、敵艦に向かって走る。そして火柱が上がり大音響 とともに敵艦は海のもくずと消えた。 『敵艦を三隻とも撃沈させてよかったのですかね。敵艦に乗り込んで素性を調査する こともできたのでは?』 『敵は海賊なんだぞ、それを許すと思っているのか。近づいた途端に、自爆してこち らを道ずれにするのは目に見えている』 『しかし甲板や中にまだ取り残されている乗員もいたのではないでしょうか』 『国籍を隠蔽した海賊船に、法や情けは無用だ。アメリカ国家と国民に対する攻撃は、 いかなる理由に関わらず断じてこれを許さない。これは大統領の強い意志であり、ア メリカの権威なのだ』 『そうですね。お嬢さまもこの艦も、アメリカ国籍でした』 『艦長。護衛艦が到着しました。十一時の方向から』 『パイロットの収容は?』 『全員救助して帰還中です』 『よし。収容が完了次第、浮上したまま基地に帰還する。出航準備。星条旗と我々の 旗をあげろ』  ポールに星条旗と、米国海軍旗、第七艦隊旗そしてARECの社旗がするすると上 がる。  艦体に接舷する救助ボートからパイロットが上がってくる。  労をねぎらうために艦長みずからが出迎えに出ていた。 『CVWー11航空団所属、キニスキー大尉であります』  以下、次々と自己申告するパイロット達。 『当艦の艦長のウィルバートだ。諸君らのおかげで敵艦隊に攻撃のチャンスが生まれ、 これを撃沈することができた。ご苦労であった、礼を言う。ゆっくりと静養してくれ たまえ。以上だ』 『はっ!』  最敬礼をするパイロットを後にして艦内に戻る艦長と副長。 『お嬢さまに、戦闘が終了したことを知らせましょう』 『おおそうだな。よろしく頼む』  居住ブロックの梓達。  戦闘終了の報告を受けて、一斉に喜びの声を上げる。 「一時はどうなるかと思いましたよ」 「ねえ、梓ちゃん」 「なに?」 「もう少し艦内の自由を与えてくれないかな」 「そうなんです、おトイレに行くのも不自由してます」 「トイレ?」  部屋にいるのは女性ばかりなので、遠慮なく話している。 「おトイレに行くのに監視がつくんです。一応女性隊員ですから、まあよしとすべき なんでしょうけど」 「艦長に相談してみる。他に何かある?」 「それじゃあ、小銭の両替お願いします。そこの自販機、アメリカコインでないと使 えませんから。ドル紙幣は持ってますけど、小銭までは用意していませんでした」 「わかった」  統合発令所。 『判りました。お嬢さまがそうおっしゃるなら、居住ブロック内に限っての自由を与 えましょう。ただし乗員のプライベートルームがありますので勝手に入らないように お願いします』 『当然です。個室が判る目印はありますか?』 『扉に部屋番号がついているのがそうです』 『判りました』 『ところで、米海軍太平洋艦隊司令長官が、ぜひお嬢さまにお会いしたいと言ってき ておりますが、いかがなされますか』 『お会いしましょう。今回の件ではおせわになりましたからね。断るわけにはいかな いでしょう』 『では、手配いたします』
     
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