梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件
(十六)反撃開始  海面に潜望鏡とアンテナが突き出ている。  艦橋から戦闘用潜望鏡(Attack periscope)を覗いている艦長。それは、スコープ 内の目標にロックオンすれば、自動的に魚雷の発射制御装置に対し、距離や雷速など のデータが入力されて、発射ボタンを押すだけになるという、最新の装備を付加した ものである。 『潜望鏡では、まだ視認できない。衛星からのデータは受信しているか』 『はい。AZUSA 5号B機からのデータによれば、後方七マイルの地点をこちらに向かっ て接近中です。二隻です』 『どうやら、二隻撃ちもらしたようだ』 『第一次攻撃隊は全滅したのでしょうか?』 『たぶんな。最近の駆逐艦は対空装備が充実しているからな」 『はい。例のデヴォンシャー型には、対空兵器としてシースラッグ三連装備とシーキ ャット連装が各一基ずつ搭載されています。さらに備砲として11.2cmと8cm砲がそれ ぞれ四門ずつあります。一筋縄では撃沈できませんよ』 『しかし、おそらく第二波攻撃がエイブラハム・リンカーンより出撃していると思い ます』 『だが、我が軍の攻撃より先に敵の魚雷攻撃の方が早い。これ以上、お嬢さまを脅え させるわけにはいかないんだ。こちらから先制攻撃をかけるぞ。ハープーンミサイル 発射準備』 『ハープーンミサイル発射準備』 『攻撃指揮装置に、AZUSA 5号B機からの敵艦の位置データを入力』 『発射管扉、開放します』  ディスプレイに敵艦の位置と、刻々と変化するミサイル制御数値が表示されてい る。 『ミサイル発射準備完了』 『発射!』 『発射します』  ガス・蒸気射出システムによって打ち上げられたミサイルは、海上に出たところで 自身のロケットエンジンに点火され、敵艦に向かっていく。発射時からエンジン点火 してもよさそうに感じるだろうが、それだと噴射ガスの高熱や圧力によって射出口が 損壊して次弾を撃てなくなる。それを防ぐために考案されたのが、ガス・蒸気射出シ ステムである。 『ミサイルの発射を確認。敵艦に向かっています。到着時間一分十二秒後』 『発射管扉閉鎖』 「爆雷攻撃があってからずいぶん経つね。逃げきれたのかしら」  絵利香が、天井を見つめながら言った。 「まだじゃないかな、戦闘が終了すれば連絡があるはずだし」  それに梓が応える。 「次の攻撃があるとしたら、魚雷戦になると思います」  そして麗香である。 「魚雷!」 「そうです。それもホーミング魚雷ですから、たやすくは逃げられませんよ」  麗香が解説する。 「そんなあ……」 「麗香さん。みんなを脅えさせるようなこと言わないでよ」 「ですが、事前に心の準備をしておくのも肝要ですから」 「あ、そう……」  敵駆逐艦が、迫り来るミサイルに対し迎撃発砲している。  誘導兵器を攪乱する、チャフやフレアがランチャーから一斉射出されてはいるが、 一向に効き目がない。それもそのはず、衛星軌道上のAZUSA 5号B機によって、誘導さ れているのであるから、攪乱兵器が通用するはずがない。  そして着弾。みるまに爆発炎上する駆逐艦。 『敵駆逐艦、完全に停止。沈黙しています』 『よし、接近して確認する。微速前進だ。艦首魚雷の発射準備もしておけ』 『微速前進』 『艦首魚雷発射準備』
     
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