霊敵なる者 3


「ここは、夢幻霊界。生ある人の住む現実の世界、夢の世界、そして死たる人の存する霊界、この3つの世界の接合点にあるもうひとつの世界よ。夢の世界にさまよう死んだ人の魂を浄化させて霊界へと誘い、輪廻転生の手助けをするのが、あたしの役目なの」
「夢の世界と霊界がつながっているのか?」
「そうよ。といっても、あなたの考えているのとは少し次元が違うけど」
 といって、少女は少し肩をすくめた。
「次元が違うとは」
「そうね……人は夢を見るわ。それはわかるでしょ」
「あ、ああ」
「じゃあ、死んだ人や今にも死にそうな人はどうなのかしら? やっぱり夢を見るとおもう?」
「それは……」
 俺にはわからなかった。ただ、いままでの少女の言葉を総合すると、死人も夢を見るのだろうか。
「ふふふ。あなたのいる現実の世界にあてはめて考えるから、おかしなことになるのよ。死人は夢なんか見ないわよ。死体はもはやただの物体でしかないんだから」
 そういって少女は無邪気に笑った。
「何が言いたいんだよ。わかりやすく説明してくれ」
「生きているってことの意味と夢を見るってことの意味を、魂の観点から考えてみてよ」
「魂の観点から?」
「生きているってことは、魂を身体に宿している状態のことを意味しているのよ。死ぬってことはわかるかしら」
「魂が身体から抜け出してしまうこと」
「ピンポーン。当りよ」
 こののりの軽さは一体なんなんだ。
「じゃあ、夢を見るってことの意味は?」
 いきなり本題に入ってきた。それがわかるくらいなら苦労はしない。
「夢を見るということは、魂がちょっと身体から抜け出して、夢幻界に遊びに行ってる状態のことなの。でも死んでいるのではないから、いずれ元の身体に戻るけどね。そのとき、夢幻界での出来事はほとんど忘れてしまうの。中には記憶として残る場合があるわ、それが夢として認知されているものなの」
「生きていても魂が身体から離れることがあるのか?」
「もちろんだけど……。生きている人の場合、身体と魂の間には二つを繋ぎとめておく精神的エネルギー、オーラと呼ばれるものでつながっているから、離れ離れになることはないの。さっき次元が違うといったこと覚えてる?」
「ああ」
「人の身体っていうのは、魂にとって単なる入れ物にすぎないってこと。だって輪廻転生を繰り返すのは<魂>なのだから。ただ、魂ってやつは宿主<よりしろ>を必要とするの、人が住むための家を必要とするように。宿主は普通なら人の身体であるわけなんだけど、不慮の事故とかなんらかの事情で身体を失った魂は、特定の場所に浮遊していたり、家屋に縛られていたりするの」
「浮遊霊とか自縛霊とか呼ばれているやつだな。そんな魂を浄化させて、霊界につれていくのが君の役目ってわけだ」
「そうなの。少しは理解してきたみたいね」
「そんな君がどうして俺の前に現れる? 俺が死んでいないとしたら……」
「ふふふ……だって」
 少女はいたずらっぽく笑った。

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