女性変身! ボディースーツ!!

part.4  それにしても……。  ほんとにこいつ……。着込むのが本当に難しく、苦しいくらいだ。  格闘、十数分!  スーツに身体を入れ終わり、ファスナーを閉じると……。女性変身の完成である。 「はい! 終わりました。鏡に映して見てみますか?」  と言いながら隅に置いてあった姿見を持ってくる。 「そうだな……」  早速、姿見に映してみる。  そこには、実に素晴らしいプロポーションを持った美しい女性が映っていたのであ る。  豊かな形の良い乳房、張りのある大きな腰周り、ウエストもスーツの持つ弾力性に よって絞られて細く締まっていた。 「なかなか……。上手くできているな。うん、どうせなら衣装も着てみたものだな」 「実は……。そう仰るだろうと用意しておきました」  というと別の紙袋から、女性用のドレスとパンプスを取り出した。 「準備がいいな。おまえ……」 「企画というものは、すべからく準備が肝心ですから」 「おい。重役会議で、こんな企画は聞いたことがないぞ。おまえの勝手な企画だろう が」 「え、あはは……」  笑ってごまかす研究員だった。  まあ、ともかく裸ではどうしようもない。  せっかく女性の身体をしているのだ。  女性の衣料を着てみて完璧というものである。  早速、研究員が用意してきたドレスを着てみることにした。 「ほう……」  感心した。  どこからどうみても、女性としか映らない。  完璧な変身であった。 「外を出歩いてみたらどうですか?」 「できるわけないだろう! 恥ずかしいじゃないか」 「え? どうしてです? 変身スーツを着ているんですよ。誰だか判らないんですか ら、恥ずかしがることもないんじゃないですか?」 「なるほど……」  それもそうだな。  この女性の格好をした中身が、社長つまり私とは誰も区別がつく訳がないか……。 「ちょ、ちょっと出歩いてみるかな……」 「そうしてくださいよ。実際に歩いてみないことには、その変身スーツの着心地とか 判らないですからね。でないと、改良点とかも……」 「おい。何で改良する必要があるんだ? 開発は中止だとさっき言ったばかりだろ う」 「あ……。そうでした。申し訳ありません」  再びうなだれる研究員だった。  ともかく、この変身スーツの評価をする一環として、部屋を出て外を歩いてみるこ とにした。  社員に一目で見抜かれてしまっては完全に商品価値はなしである。  もし、そうなれば研究員は……。 「減棒だな」  数百万もの制作費が掛かるものを無断で製作したのであるから当然であろう。   「しかし、どうせなら女性用の制服にすれば良かったのにな」  まったくこれじゃ、目立ちすぎてしようがなかった。  通りがかる社員のほとんどから注目され、すれ違った後にも立ち止まり振り返って しばらく見つめているのだ。私と目が合うと慌てて目を伏せて足早に立ち去っていく。  声を掛けて来る者はいなかった。  これだけの美人(偽者ではあるが……)だ。  さすがに躊躇してしまうのだろう。 「気持ちは判るがな」  しばらく社内を歩いてみたが、誰も気づいている様子のものは見受けられなかった。  間近でじっくりと観察すれば判るだろうがな……。  まあ、そんな勇気ある軟派な野郎は、この会社にはいない。 「しかし……。暑いな」  腕を見ると、人工皮膚の表面からうっすらと汗が滲みでていた。  そう、これがこの人工皮膚の特徴なのである。  皮膚には汗や空気が通過できるように、極微細加工による通気孔が施されているの である。 「さてと……。このくらいで十分だろう」  いくら人工皮膚の変身スーツとはいえ、さすがにこの暑さには耐えかねる。  社長室に戻ることにした。 
     
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