女性変身! ボディースーツ!!

part.5 「お帰りなさいませ。いかがでしたか?」  研究員が出迎えた。 「なかなかのものだな」 「でしょう?」  明らかに期待を持った表情をしていた。 「だが、開発は認めない!」  がっくりと肩を落とす研究員。  確かに素晴らしい変身スーツかも知れないが……。  着ている女性の衣料を脱ぎながら考える。  なんにしても、あまりにも制作費が掛かりすぎるのだ。  乳癌治療の乳房再建手術用としてのように、保険がきかないととても手が出せない のである。  売れないと判断できれば開発はなし。  企業として当然の結論である。   「あれ?」 「どうしたのだ」 「ふぁ、ファスナーが……開きません……」 「なに?」  一生懸命にファスナーをいじっているがどうもこうも動かないようだった。 「あ! 壊れちゃいました」 「なんだとお!」  それから数時間、ファスナーを開ける努力を続ける研究員だったが……。 「やっぱり、だめです。どうしても開きません」 「と……いうことは、しばらくこのままというわけか?」 「はあ、そういうことになりますね」 「気楽に言うなよ」 「申し訳ありません」 「しかし……。参ったなこれじゃ……」  着るのにも脱ぐのにも、誰かの手助けが必要な変身スーツである。  女性の格好をしている以上、元の男性の衣服を着るわけにはいくまい。  仕方なく、また女性のドレスとハイヒール姿に戻ることにした。  それから、社長室を出て社員の好奇な目に晒されながらも会社を出て、 自宅に戻った。  もちろん研究員には、この変身スーツを脱ぐ方法を明日までに考え出す ように言い残してである。  さてと、シャワーを浴びて、汗を流したいところだが……。  変身スーツを着込んだままである。  シャワーを浴びてもなあ……。  がしかし……。  変身スーツのすべてを知るにはいい機会かも知れない。  スーツを着たままでシャワーを浴びれるか?  その評価を下すためにも、試してみることも必要であろう。  ともかく、何をするにも評価である。  この際だ、いろいろと試してみよう。  というわけで、ドレスを脱いで裸になり……。  実際には着ぐるみだが……。  バスルームに入る。  シャワーを捻ってお湯を出し、熱いお湯に身体を浴びる。 「おお! なかなか気持ちがいいじゃないか」  変身スーツを着てはいるが、さすがに我が社の最新技術を誇る人工皮膚だった。  温度の上昇と共に出てくる汗は、人工皮膚の極微細通気孔から外へ排出され、シャ ワーで流される。  ほとんど素肌感覚であった。 「この人工皮膚を開発した研究員の俸給を上げてやるか……」  もちろん人工皮膚(開発コードjm−194号)と人工乳房(開発コードjk−2 73)を開発したのは、この変身スーツを製作した彼ではない。他の研究素材を流用 しただけである。  こんな事態になった彼は……。  減棒! である。  汗を流し、さっぱりとしていると電話が掛かってきた。  彼であった。 『言い忘れていたんです。変身スーツの人工皮膚は熱水にあたると、変性して完全密 着してしまうんです」 「なんだとお! ほんとかそれは?」 『ですから、お風呂とかに入らないで……』 「バカモノ! もうとっくにシャワーを浴びてしまったぞ」 『えええええ! 本当ですか!!』 「今風呂上りのビールを飲んでいるところだ。で、完全密着するだと?」 『はい。間違いありません』 「何でそれを言わなかったのだ!」 『だから、忘れていたと……』 「今すぐ、こっちへこい! すぐ来い!! 飛んで来い!!!」  言うだけ言うと、がちゃんと荒々しく電話を切る。  ほんとうかよ!  完全密着だと?  もはやこの変身スーツを脱げないということか?  つまり一生、この女性の姿のままというこなのか?  その研究員は、二十分後にやってきた。  大汗を流し、ハンカチでしきりに拭いながらも変身スーツの状態を調べていた。 「だめです……。密着融合してしまっています。社長の肌と人工皮膚とが完全同体化 しています」 「つまりこの表面の肌は生体化して……私自身の肌になってしまったというのだな」 「はい。その通りです」 「気安く言うなよ!」 「も、申し訳ありません」  まいったな……。  変身スーツは完全に私自身の肌と密着融合してしまった。  もはや脱ぐことは不可能になってしまったということである。  無理に引き剥がそうとすると本来の皮膚まで一緒に剥がれてしまうということであ る。  見た目には確かに女性そのものである。  この豊かな胸は、現在のところはjk−273という人工乳房であるが、やがて私 自身の細胞が浸潤し増殖を繰り返して本物の乳房になってしまう。  女性特有の大きな腰回りも同じように本物の脂肪細胞に置き換わってしまうはずだ。  見た目の姿は、いずれ本物の女性の姿に変身してしまうのだ。  しかし内面は男性のままだ。  生殖器も何もかも……。  ふう……。  私は思わず深いため息をついた。 「あの研究員を呼ぶか」  そう……。  性転換を研究している『あいつ』である。  それから数ヵ月後……。  私は性転換し、女性社長となった。  了
     
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