女性変身! ボディースーツ!!

part.2 「この乳房は、我が社開発の特殊人工乳房jk−273号を使用しています」 「273号?」  それは乳癌治療のために開発された。  乳癌となれば、転移をも考えて乳腺の全摘出するのが最善であるが、当然として乳 房を失う結果となる。  最近の乳癌治療といえば、乳房の形状を残して一部の癌組織だけを摘出して、抗が ん剤や放射線線治療などを行う温存療法が主流となってきているが、乳腺を残す限り 再出現の可能性は高い。  やはり転移や再出現を考えれば、全摘出が一番である。そこで乳房再構築手術用の プロテーゼとして開発されたのが我が社の特殊人工乳房である。  乳房再建には、大別してプロテーゼ挿入法(生理食塩バック・シリコンバック)と 脂肪注入法とがあるが、あくまで見た目を再建するだけのものである。プロテーゼは 簡易に望むだけの大きさの乳房を形成できるが、時間経過により硬くなってしまうと いう欠点があり、毎日適度に揉み解す必要がある。これは皮膜拘縮と呼ばれていて、 アコヤ貝における人工真珠の製造でもおなじみであるが、生物の拒絶反応の一種とし て、異物に対してそれを覆うようにして皮膜が発生して硬くなってくる現象である。 また脂肪注入法は拒絶反応などはないが、ただの脂肪であるだけに、本来の弾力性 (つまりポヨヨーンと弾んだりする特性)が足りないとか、その形状をなかなか維持 できないという欠点がある。  しかし我が社の人工乳房は、人工皮膚で培った特殊人工蛋白質による乳腺組織を持 った、より本物に近い乳房を作り出すことができる。それも時間の経過と共に自身の 細胞が浸潤繁殖して、やがて本物の乳房となり、妊娠後には授乳さえも可能となる、 夢の人工乳房である。その最新型が「特殊人工乳房開発ナンバー、jk−273号」 である。乳癌全摘出手術と同時に行われる再建手術用のアイテムである。最新素材で あるがゆえに百万円以上はかかる品物だが、乳癌治療としての保険適用の申請をして いるので、それが認められれば誰にでも実施できるようになるだろう。もちろん全額 自費出資すれば、美容外科としての豊胸手術も可能である。 「おまえなあ……。この変身スーツはあくまでお遊びアイテムだろう。それに我が社 のトップシークレットでもある、jk−273号を使うとは……。何を考えておるの だ」 「はあ……」 「お遊びアイテムなら、ラテックスやシリコン素材で十分だろうが。価格のことは考 えたのか? 誰が、お遊びアイテムに数百万の金を出すか? こんな変身アイテムに つぎ込むくらいなら、いっそのこと自分自身に直接豊胸手術した方が良いに決まって いる。そんなことも判らないのか!」 「はあ……。ごもっともで」 「まったく……。研究家というやつは……どうしてこうも、まともな考え方しないん だ。とにかくだ! その変身スーツの商品化は却下だ。判ったな!」 「……判りました」  完全にうなだれてしまった研究員。 「ところで……。これはどうしましょうか?」  と変身スーツを指差す。  体よく言えば、頭の先から足先まで、完全に女性の裸身を模した着ぐるみであった のだが……。
     
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