(十九)一同に会す 「お姉さん、社長がお呼びよ」  その日の仕事を終えて、私服に着替えていると、わたしの事をお姉さんと慕う里美 が、知らせに来た。 「社長が?」  社長と言えば、わたしを覚醒剤から解き放し性転換手術によって真の女性にしてく れた産婦人科医にして、製薬会社社長黒沢英一郎氏のことだ。 「英二さんのとこにいた由香里も呼ばれたらしいわ」 「姿が見えないと思ったら、英二さんと一緒だったのか。お熱いわね」 「わたしも呼ばれてるから、三人娘揃いぶみね。何かあるのかなあ」 「以前英二さんに三人揃って食事に呼ばれた時は、由香里へのプロポーズだったわよ ね」 「もしかしたら、わたしかお姉さんのどちらかにお見合いの話しだったりしてね」 「お馬鹿言わないでよ。そんなことないわよ」 「うーん……。だとしたら、順番からしてお姉さんが先ね」  聞いてない……。  社長室に入ると、先に由香里と英二さんがいた。そして見知らぬ青年が一人。 「全員揃ったようだね……」 「親父……じゃなかった。社長、一体何のようだよ。俺達を呼び出して」 「響子さんに、お見合いの話しを持ってきたんだ」 「ええ? わたしがお見合い?」  わたしは驚いた。 「ね、やっぱりでしょ」  と、里美がわたしの小脇をつつく。 「申し訳ありません。以前にもお話ししました通り、わたしは結婚する意思がありま せん。お断り致します」 「どうしてだ。いい話しじゃないか」  わたしは、社長さんの行為が納得できなかった。わたしの過去をすべて知っていて、 その気持ちは理解してくれていると思っていた。明人以外の男性とはもう二度と交際 するつもりはない。 「社長さんと、その男性の方とは、どういう関係なんですか?」 「実はこのひと、わたしの長男といったところだ」 「長男って……。まさか実は元は女で、性転換したってわけじゃないだろうな」 「まさか。わたしは、女にする手術はやるけど、男にする手術はやらないぞ」 「だったら何だよ」 「このひとは、脳移植されて生き返ったのだ」 「脳移植?」 「そうだ。身体は無傷だけど脳死状態に陥った患者Aと、身体は死んでしまったけど まだ脳は生きていた患者B。患者Aの身体に患者Bの脳を移植して蘇生させたのだ。 戸籍的に患者Aが生き返って、患者Bは死んだことになってる。身体は患者Aだけど、 心は患者Bなのだ」 「真菜美ちゃんと同じ事をなさったのですね」  そういえば真菜美ちゃんは、呼んでいないようだ。結婚とかいう話しにはまだ早す ぎる。もうじき十七歳のまだ子供だ。 「そうなだ、そのまま放っておけば二人とも死んでいたけど、脳移植で片方だけを生 き返らせた。念のために二人とも男性だ」 「それで、生き返ったその人とわたしを一緒にさせようというのですね」 「その通りだ。一応我が社の営業部で働いてもらっている。年齢的に響子さんにぴっ たりだから、お見合い相手にどうかと呼んだ。いきなりの直接面談でびっくりしたか もしれないが。響子さんにはとってもいい話しだと思うぞ」  とんでもないわ。  いきなり見ず知らずの相手となんか……。 「何度も申しますが、わたし結婚する意思がありませんから」
     
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