純愛・郁よ

(五)ベッドの上で  部屋に入るとすぐにベッドに駆け寄る郁。  腰掛けてぴょんぴょん跳ねるようにしてスプリングの具合を確かめている。 「丁度いいみたい」 「そうか……」  俺は冷蔵庫を開けて中身を確認する。 「あまりたいしたものは入っていないな」  どうしても俺達のアパートそばの安ホテルと比較する。  安ホテルとは言うが、競争が激しいから安いんであって、このホテルの設備よりは るかにいいぜ。お肌つるつる鉱泉風呂があったり、モーニングサービスがあったり、 星占いのコーナーがあったりする。  まあ、どうでもいいや。取り敢えず缶ビールをもらおう。 「先にシャワー浴びるね」 「おう。これ飲んだら俺も行く」  と答えると、頬を少し赤らめて頷く。 「うん……待ってる」  ホテルでシャワーを使う時、いつも一緒だ。洗いっこなんかして戯れたりするのだ。 大概郁が先に入った後で、俺が続いて入る。  シャワーの音が聞こえてきた。俺はビールをぐいと飲み干してからバスに入って行 く。  湯気に煙ったバスの中、郁の姿が目に映る。  なで肩からくびれたウエスト、大きなヒップにかけてのラインは女そのもの。  背後から手を回して、豊かとは言えないが形良く整ったその乳房に手を掛ける。 「あん」  シリコンなど入っていない本物の乳房だ。しかも中学に入る前から女性ホルモンの 投与を受けていて、十年以上もかけて成長したそれには、神経感覚が張り巡らされ鋭 敏になっている。出来合いのものとはまるで違う。……と思う。郁以外の女性とは関 係したことがないから断定などできない。  軽く弄んだところで、下の方に手を動かす。  クリトリスを二本の指先でいじり回す。 「か、感じちゃうよ」  さらに下に移動して、女の泌部に指を差し入れる。 「だ、だめ。お湯が入っちゃう」  俺はやめない。やがて郁の声があがってくる。 「あ……。もう、立ってられないよ。ベッドに連れてって」 「わかった」  身体をバスタオルで拭きあいしてからベッドルームへ。  もう気づいているだろうが、郁は性転換手術を受けている。  俺達が一緒に暮らしはじめた頃は、郁は睾丸摘出を受けていたが、さらにもう一歩 女性に近づいて欲しかった。  それを言い出したのは俺の方からだった。  まあその時は、ちょっとばかりからかって郁を泣かせてしまったがな。  ちょっと話して聞かせてあげよう。
     
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