純愛・郁よ

(四)モーテル  ディズニーを後にして、一路国道を家路に向かって走らせていた。 「あれが、いいんじゃない?」  郁は、お城のような外観をしたモーテルを指差している。 「わかった」  郁は意外と子供っぽいので、シンデレラ気分にでもなるつもりかな。  ウィンカーを出して、そのモーテルの駐車場に車を入れる。  明日の月曜日も連休なので、泊まりだ。  休日でこの時間帯は大概満室のところが多いのだが、運がいいのか空いていた。 「うーん。どれがいいかしら」  電光パネルに表示された、寝室のベッド周辺を映した映像を見ながら、部屋探しを している郁。慣れているので、こういうことは郁にまかせた方が良い。  俺はどんな部屋でも構わないのだが、郁は部屋の調度品とかベッドカバーとかを気 にする。愛している人に抱かれるのだから、ムードを大切にしたいと思うのが女心と いうものである。 「これで、いいでしょ?」  郁が一応確認してくる。  何事にも、最終的には必ず俺に決断させるのだ。 「ほかのにしたら?」  と尋ねると、 「ううん。これでいい」  必ずそう答える。だったら最初から、 「これにしましょう」  と言えばいいのに。  女心はよくわからん。  ともかくパネルに付いているボタンを押してフロントへ行く。郁は俺の腕に自分の 腕をからませている。 「いらっしゃいませ。お泊まりですか?」 「そうだ」 「一万八千円、頂きます」  ディズニー帰りの途中にあるホテルだ。料金が高い。  俺達のアパートの近くにあるホテルは、泊まりでも七千円止まりだぞ。まあ、地方 都市のせいだからだが。  ほとんどぶったくりと言ってもいいだろう。  次から次と客が入るから、それでもいいのだろう。  何にしても郁が気に入っているから変えるわけにもいかない。 「あれが、いいんじゃない?」  と言ったのは、 「あれにしましょう」  なんだから……。  支払いを済ませて鍵をもらう。 「そちらのエレベーターを上がって、五階でございます」  俺達が男同士だと気づくわけもない。フロントはマニュアル通りの案内している。 例え明らかに男同士、女同士でも対応は同じだろう。 「わかった」
     
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