第三章
Ⅱ 惑星ケムニッツ
ヴィースバーデン恒星系惑星ケムニッツ。
取り囲むようにケンタウロス帝国艦隊が展開している。
艦隊旗艦ヴェルテンベルク艦橋。
艦隊司令官ヘンドリック・ドゥーゼ中将が苛立っている。
「援軍の艦隊がここへ到達するのは何時間後だ?」
「八時間後と思われます」
副官のヴィクトール・ラング少佐が答える。
「遅い! 敵艦隊は六時間後にやってくるのだぞ」
「時間差二時間です」
「現有八千隻で、敵は二万五千隻。約三倍の敵艦隊に勝ち目はない!」
「いかがなされますか?」
艦隊参謀のマンフレート・シュタイン中佐が尋ねる。
「馬鹿もん! それを考えるのが参謀の役目だろうが!」
「申し訳ありません!」
恐縮する参謀だった。
「誰か良い作戦はないか?」
見回す司令官だったが、誰も上げなかった。
「どいつもこいつも役に立たないのか!」
いきり立つ司令官。
誰も声を上げない、沈黙の時間が訪れた。
「自分に任せていただけますか?」
一人の士官が名乗り出た。
「君は? 新任の……」
「ヴァルター・シュパールヴァッサー中佐です」
彼は、かつて惑星パウサニアースの警備艦隊の指揮官だった男だ。
惑星リモージュの国際宇宙ステーションからワープゲートを利用する民間船舶の乗
客の検札を行っていた。
その後、異動で惑星ケムニッツ配属となっていた。
「どんな作戦だ? 言ってみろ」
疑心暗鬼になりながらも尋ねるドゥーゼ中将。
「端末お借りします」
そう言って、端末を操作するシュバールヴァッサー中佐。
正面スクリーンに、惑星バウサニアースから惑星ケムニッツに至る星図が映し出さ
れた。
「敵艦隊の予想進撃ルートを表示します」
バウサニアースから赤いマークが動き出し、ケムニッツ付近には帝国艦隊を示す青
いマークが点滅している。
「赤いマークが公国艦隊の予想進撃ルートです」
赤いマークはゆっくりとケムニッツに向かって動いている。
「二万五千隻の公国艦隊です。こちらは現況八千隻、まともに戦っては勝てません」
「それくらいは誰にでも分かるぞ」
誰かが茶々を入れた。
「今回の作戦は、敵艦隊の進撃速度を遅らせることにあります。そして援軍の艦隊が
到着するのを間に合わせるのです」
「できるのか?」
「他に案があるとでも?」
話の腰を折られて、ムッとした表情を見せる中佐。
「分かった。続けてくれ」
「続けます。まず艦隊から千隻ほどの高速艦艇からなる分艦隊を作ります」
「分艦隊?」
只でさえ、敵よりも艦艇の数が少ないのに、分けてどうするのだ?
口には出さないが、訝し気に話を聞いている。
「敵艦隊の進撃ルートのほぼ中間点に中性子星マクデブルクがあり、惑星フェッデリ
ンゲンが周回しています。分艦隊はこの惑星の影に隠れます」
「大丈夫なのか? 中性子星と言えば強力なガンマ線を出すんじゃなかったか?」
「フェッデリンゲンの影に隠れますので、直接の影響はありません」
「分かった。その分艦隊の指揮は君がやりたまえ」
「自分が……ですか?」
「言い出しっぺがやるのが常識だろ」
「分かりました。分艦隊の指揮を執ります」
こうしてシュバールヴァッサー中佐は、分艦隊の指揮を執ることになったのだっ