第一章
Ⅰ 海賊基地のこと
漆黒の宇宙を突き進む二百隻の艦隊があった。
その旗艦である戦艦ロイヤル・サブリンの艦橋。
「惑星サンジェルマンまで六時間です」
航海長が報告する。
「爺に会うのは何年ぶりだったかな」
尋ね返すのは、アルデラーン公国第一公子のエドワード、後のアレクサンダー二世
である。
「七年前、ハルバート伯爵さまの侯爵位授与式でお会いして以来ですね」
艦隊司令官マーティン・ウォーズリー少将が答える。
彼は、初めてアムレス号と戦うも散々な目に合わされて、結果鞍替えした指揮官だ。
当時の階級は少佐である。
爺というのは、惑星サンジェルマンの領主ハルバート侯爵である。
アルデラーン公国が再興された後に伯爵位を返還され、さらに公爵位を授与された
のだ。
恨みもしたが、自分の孫は可愛いかった。幼い孫が遊びに来るたびに、目の中に入
れても痛くないほど溺愛するほどだった。
侯爵の娘レイチェルには男爵位を持つ婿養子がおり、三人の娘を産んでいた。男子
がいないので、なおさらエドワードを愛おしく思う侯爵だった。
惑星サンジェルマンに近づいてゆく艦隊。
「殿下、本星より入電しました」
「繋いでくれ」
「繋ぎます」
通信用モニターに公王アレックスが映し出される。
「陛下。いかがなされましたか?」
『緊急だ。すぐさま国際中立地帯の海賊基地へ向かってくれ』
「海賊基地ですか?」
『そうだ。ケンタウロス帝国が奇襲を仕掛けてきたのだ。緊急通信が入った』
「これから向かって間に合いますか?」
『向こうも籠城戦で頑張っているようだ。開城される前に蹴散らしてくれ』
「わかりました」
『私もすぐにアムレス号で応援に向かう』
通信が途切れた。
一息ついてから、下令するエドワード。
「進路変更! 海賊基地へ向かう」
「進路変更、進路海賊基地!」
ゆっくりと転進を始める艦隊。
「間に合うといいんですけど」
ウォーズリー少将が心配する。
だがその言葉の裏には、戦いの経験の少ない将兵が多い自分の艦隊の心配でもあっ
た。
このような日が必ずくると訓練は欠かさず行ってきたが、実戦となると思いもよら
ない事件はおこるものだ。最悪なのが敵前逃亡だ。命が掛かった戦いから逃げ出した
くなるのは当然だから。
「アーデッジ船長がいるから大丈夫だと思う」
エドワードが幼少の頃、アムレス号に乗って海賊基地に遊びに行っていた。なので、
頭領アッカルドやアーデッジ船長とも顔馴染みになっていた。海賊船フォルミダビー
レ号にも乗せて貰ったこともある。
父アレックスがフォルミダビーレ号に乗り活躍していたことも知っている。海賊達
は、常日頃から海賊行為において、戦いの連続を生き抜いてきているのだ。
ケンタウロス帝国艦隊とて、全員が戦闘馴れしているとは限らない。艦隊編成した
時に戦闘未経験の艦もいると思われる。
そう簡単に負けるはずがない。