第四章
Ⅸ 特命全権公使
アムレス号艦橋。
「ロベスピエール侯爵から停戦して和平交渉を進めたいとの連絡がありました」
カトリーナが報告する。
「和平交渉? 休戦協定をまず締結するのが先じゃないのかな」
「特命全権公使を使わせるとのことです」
「何か一方的な物言いだな。承認(アグレマン)の手続きもしないままですか」
公使を乗せた敵艦隊旗艦、戦艦デヴァステーションが、白旗信号灯を点滅させなが
ら近づいてくる。
「相手艦より入電しました」
「繋いでくれ」
スクリーンに映し出されたのは敵艦隊司令官だった。
「アーネスト・カルヴァート中将であります。ご尊顔を拝する機会を賜り、誠にあり
がとうございます」
「アレクサンダー・ハルバートです。ご丁寧にありがとうございます」
「特命全権公使をお連れしました。そちらへの艀を用意しましたので、乗艦許可お願
いします」
「許可しましょう」
「ありがとうございます。それでは後ほど」
通信が途切れた。
数時間後。
戦艦デヴァステーションから一隻の舟艇が発進してアムレス号へと向かっていた。
アムレス号の着艦口が開いて飲み込まれてゆく舟艇。
舟艇の乗降口が開いて、甲板上に降り立つ公使一行。
出迎えるのは、エダと甲板長他数名だった。
「お待ちしておりました。この艦の管理者のエダと申します」
「特命全権公使のウォルター・ストーンだ」
外交官にしては、えらく刺々しい態度だった。
「なんだ。伯爵は来ておらぬのか?」
「謁見室でお待ちになられておられます」
「侯爵から承った特命全権公使だぞ。迎えるのが常識だろう」
出迎えが貧相なことに憤慨する公使だった。
どうやら、自分は侯爵の全権公使で、相手は身分が下の伯爵だ、媚びへつらう必要
はないと考えているようだ。
「こちらへどうぞ」
先に歩みだすエダ。
ブツブツ言いながらも着いていく公使だった。
謁見室に入室するエダと公使達。
その姿を捉えようとカメラを動かす広報班のテレビクルーがいた。
ことの詳細を国際放映するために用意したものだった。
紫紺の絨毯が敷かれている上を歩いてゆく公使。
その両側に立ち並ぶランドルフ・タスカー中将他の士官達が訝し気に見つめている。
挙動不審な行動を見せれば、すぐさま取り押さえられるような態勢である。
壇上のアレックスの姿を見て足を速めて近づく公使。
そして壇上の手前で立ち止まる。
「特命全権公使のウォルター・ストーン男爵です。お見知りおきを」
エダなどの配下の者には太々しい態度だったが、さすがに上位の爵位を持つアレッ
クスには配慮しているようだ。
「よくぞ来られた。お勤めご苦労様です」
「早速ですが、侯爵様より承った書簡を読み上げまする」
そういうと、傍に控えていた次官が携えていた筒から書状を取り出し、アレックス
の前で広げて読み上げた。
その一挙一動を訝し気に見つめる一同。
「おい、本当に和平交渉に来たのか?」
「あれじゃ、まるで宣戦布告しに来たみたいじゃないか」
ひそひそと小声で耳打ちしあっている。
「ロベスピエール侯爵の名において、以下のことを認める。
1、正式に伯爵の爵位にあることを承認する。
2、惑星サンジェルマンを含める旧アルビエール侯国領を所領地とすることを認める。
3、……
と、次の項目を述べようとした時、
「ちょっと待て!」
アレックスが言葉を遮った。
「まるで恩賜(おんし)を与えてやるみたいな言い分だな。和平交渉を結ぶために来
たのではないのか?」
「な、なにを……」
何を言うのだこの下賤が! とばかりに憤慨する公使だった。
「知っているぞ。お主が孤児であることをな! どこで手に入れたかは知らぬが、こ
の船を手に入れて武力で伯爵家を乗っ取ったのではないか!」
その言葉を暴言と取った士官の一人が一歩前に動いた。
「待て!」
アレックスがその士官に向かって制止させる。
なんであろうと相手は特命全権公使である。
手に掛けてしまえば国際問題となる。
制止されて引き込む士官だった。