第四章
Ⅶ 戦いの後で
ヴォルソール星域会戦の戦果は、アムレス号率いる伯爵艦隊の勝利に終わった。
戦果として、侯爵艦隊の巡洋艦二十四隻に対して、撃破四隻、大破三隻、中破五隻、
小破七隻、残りの艦は軽微のまま降伏となっている。
一方の伯爵艦隊の損傷は、先頭で突撃した旗艦デヴォンシャーの中破が最大損傷を
受けただけで他は軽微ばかりだった。
アムレス号に参謀と各艦の艦長が集められて論功行賞を兼ねての作戦会議が開かれ
ていた。
「タスカー中将、旗艦はこのまま航行できます?」
タスカーは、『我に従え!』とばかりに先陣突撃を切ったので、敵艦から集中砲火
を浴びていた。
これほど勇気ある行動を取れるのは、彼が国境警備隊出身で、国境付近を荒らす海
賊との戦闘を何度も繰り返して、経験を重ねた叩き上げの将軍であるからだ。その腕
を買われて艦隊司令官へと上り詰めたのである。
「はっ。兵装はかなり損傷を受けましたが、エンジンには被弾しておりませんから、
航行には支障はありません。艦首魚雷が無事ですのでまだまだ戦えます」
「随行は可能なのですね」
「可能です」
「それでは引き続き、随行をお願いします」
「御意!」
その後、功績に応じた行賞が与えられた。
幾人かの士官が昇進し、ウォーズリー少佐は中佐となり、鹵獲した艦船を加えて十
二隻の部隊となり、正式に伯爵艦隊所属の重鎮となった。
タスカー中将は、すでに高位にあるので、準男爵の爵位を与えられ『Sir』の称
号を得た。
数時間後、謁見の間にて降伏した敵艦の艦長らとの謁見が開始された。
まず最初に、引き出されたのは艦隊司令官たるブランドン・ヘニング男爵だった。
「私は、ブランドン・ヘニング男爵だ。捕虜として扱うなら、貴族としての待遇を要
求する」
戦争に負けたにも拘わらず、相手を見下しつつ横柄な態度で高待遇を要求する男爵。
「あなたは確かに貴族かもしれないが、軍人としての士官たる資格を持ち合わせては
いないようです。国際戦時捕虜条例に照らし合わせても、交戦者資格を持たない民間
人です。民間人が積極的に戦闘行為を行い捕縛された場合は刑法犯として処遇するの
が原則です」
「なんだと! 私をテロリストだというのか? この餓鬼が」
立ち上がり掴みかかろうとするが、両脇にいた兵士に制止されてしまう。
「そうですね。かくいう私も爵位を得たばかりで、士官学校にも入っておらず、軍人
としての階級を持っていない民間人です。逆の立場で、私が捕虜になっていた場合、
処刑されてもおかしくなかったでしょう」
民間人という言葉に、あたりの将兵達に多少の疑問符がついたようだ。
確かに、どこからともなくやってきて、あれよあれよという間に伯爵の地位に付い
て、いつの間にかサンジェルマン艦隊を指揮するようになっていた。
「ただ、あなとの違いは、私はこのロストシップの所有者だということです。かつて、
『タルシエンの橋』『ルビコンの橋』を渡って二つの国家を興した人物の継承者です」
続いて召喚されたのは、カーライル子爵からの派遣部隊長のボールドウィン・バー
トルズ中佐。
「何故、私が捕虜の扱いなんだ! 援軍として加わったのだぞ」
手錠をはめられて連れ出されたので憤慨していた。
「それでは問いかけます。本船が荷電粒子砲を撃ち放った直後に、あなたは何をされ
ましたか?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる中佐。
「言いましょう。あなたは、この船に攻撃を仕掛けましたね。そしてウイルスに引っ
かかったと」
言い訳は通用しないと悟る中佐。
「その通りです。私は、子爵から隙を見て寝首を?けと命じられていました」
素直に白状する中佐だった。
「正直でいいですね。命令に従っただけというなら、あなたの反逆も許されても良い
ですね。そこで提案です」
「提案?」
「我が艦隊が鹵獲した艦艇で編成した新部隊の指揮官を務めてみませんか」
「主君を乗り換えよと?」
「能力ある者を失いたくないのでね。ケンタウロス帝国との脅威に対するには、一人
でも有能な軍人が欲しいのです」
中佐は考えた。
暗殺に失敗した以上、子爵の元には帰れない。自分の居場所はないだろう。
しかし、目の前の相手は自分を暗殺しようとしたのに、自らの配下に取り入れよう
としている。
心の広い人物なのかもしれない。
「分かりました。ぜひ、あなたの下で働かせてください」
こうしてアレックスの元に、また一人有能な士官が増えたのであった。