第四章
Ⅵ それぞれの戦い
「発射!
駆逐艦グラスゴー指揮官バートルズ中佐が叫ぶ。
「発射します」
砲撃手が復唱しつつ、発射ボタンを押した。
「?」
しかし、発射されることはなかった。
「どうしたのだ?」
中佐が怒鳴る。
「わ、分かりません」
砲撃手は、改めて発射ボタンを押し下げる。
やはり艦砲は沈黙を続けていた。
さらに、異変は続く。
突然艦内の照明が消えた。
「どうした?」
「エンジンが……エンジンが停止しました」
「補助バッテリーに切り替えろ!」
真っ暗では何も分からない。
「補助バッテリーに切り替えます」
再び照明だけは点灯した。
しかしそれだけで、戦闘継続は不可能だった。
エンジンが動いていなくては、兵器を稼働させることはできない。
「なぜだ? なぜ止まった?」
憤慨する中佐に副官が答える。
「おそらく、伯爵から与えられてインストールしたディスクプログラムにウイルスが
仕込まれていたのではないでしょうか?」
「ウイルスだと? では、伯爵は我々を最初から信用していなかったというのか?」
「そういうことになります」
「何故、ディスクをインストールした?」
「そうしないと、作戦概要も暗号通信解読も分からず、身動きがとれなくなります」
「畜生!
地団太踏む中佐だった。
ほぼ同時刻、侯爵艦隊旗艦戦艦デヴァステーション艦橋内。
「左舷に高エネルギー反応!」
「奴らが撃ってきたのか? 回避せよ」
「ま、間に合いません!」
アムレス号から発射された中性粒子ビームが襲い掛かる。
当たればひとたまりもない。
息を飲む乗員達だった。
しかし、ビームは艦隊を逸れてしまった。
「は、外れたのか?」
安堵のため息をつく中佐だった。
「今のは、荷電粒子砲でしたね。砲撃手が素人だったのでしょうか?」
副官が推理する。
「ともかく、一発撃てば再充電に時間が掛かるはずだ。しばらく撃ってはこないだろ
う。正面の敵艦隊に集中するんだ」
と正面の敵艦隊に向き直った。
約五分後だった。
「右舷に反応あり!」
レーダー手が叫ぶと同時に激しい震動に見舞われた。
「どうしたのだ?」
「隕石です。いや、無数の岩石が飛んできました」
「岩石だと?」
「先ほどのビームが外れた先に惑星があり、表面の岩石が粉砕されて飛んできたもの
と思われます」
「まさか、艦隊を直接狙ったのではなく、間接的な岩石流として攻撃してきたという
のか?」
「そのようです」
「小癪な真似をしやがって!」
憤り収まらぬ中佐だった。
一方の対戦相手の伯爵艦隊旗艦デヴォンシャー艦橋では、タスカー中将が目を見張
っていた。敵艦隊に襲い掛かった岩石流からは避難できる場所に位置していた艦隊。
「今のを見たか?」
副官のカークランド少佐に声を掛ける。
「見ましたよ。最強の援護射撃です。我々に殊勲を上げさせるために手助けしてくれ
ているようです」
「よし、期待に応えることにしよう。敵艦隊の戦型が乱れている今がチャンスだ!
紡錘陣形で突撃する」
号令一下、一糸乱れず敵艦隊中央に向かって突撃する艦隊。
敵艦隊は、岩石群によって艦に損傷をきたして、機動レベルを維持できない艦が続
出して隊列を乱していた。
艦艇数が多くても士気レベルが低くなっては勝てるものも勝てない。
数時間で決着は着いた。
侯爵艦隊は白旗信号を打ち上げて全艦エンジン停止したのだった。