第三章
Ⅸ 巡航
惑星ベルファストへ向かう途中途中で、逐次ワープや戦闘訓練を行って経験を重ね
てゆく訓練生。
『マモナク、惑星ベルファスト、ニ到着シマス』
「よし、亜光速三分の一に減速せよ」
「亜光速、三分の一!」
機関士のアルフィー・キャメロンが復唱する。
「カーライル子爵に連絡を入れてください」
「了解!」
通信士のボビー・ハイアットが答える。
訓練試合では機銃手担当であったが、ここでは通信士専属となっている。この艦に
は機銃手として多くの士官候補生が乗艦しているからだ。
「子爵が出ました」
「スクリーンに映してくれ」
「了解」
やがて正面のスクリーンに映し出されるカーライル子爵。
『マクシミリアン・カーライル子爵です』
「はじめまして、自分はアレクサンダー・ハルバート伯爵です。お見知りおきを」
『して、その伯爵様が如何な御用でありましょうか?』
子爵は、公国の覇権を巡っての戦争が起きていることは知っているはずだが、しら
ばっくれるつもりのようだ。
「いえ、ちょっと近くを通るので挨拶をしたかっただけですよ」
飄々とした表情で答えるアレックス。
『挨拶……だけですか?』
拍子抜けの子爵だった。
「はい。防空識別圏の外側を航行しますのでご安心を」
『それはそうと、侯爵様と戦争状態に入られたそうですよね』
「その通りですが」
『でしたら、援軍として三隻ほどですがご用意致しましょうか?』
「それは有り難い。是非、お願いしますよ。一隻でも多い方が助かります」
『では早速手配致しましょう』
通信が途切れた。
子爵の公邸。
通信を終えて、手筈通りにいったと安堵の表情をしていた。
速やかに軍艦三隻の艦長を呼び寄せて、計略を伝える。
「味方になったと見せかけて、隙あらば背後から攻撃せよ、と仰るのですね」
一人の艦長が言うと、
「そういうことだよ」
「しかし、上手くいったとしても周りは伯爵の艦隊だらけです。我々に逃げ道はあり
ません。復讐となって我々に襲い掛かってきます」
別の艦長が尋ねる。
「だから、最後尾についていつでも逃げられるようにしておくのだ。攻撃と同時に全
速力で離脱すれば」
「そう簡単にいくでしょうかねえ」
三人目の艦長は疑心暗鬼である。
「だからこそ、我が国で最も高速艦艇である君達の艦を呼んだのだ。上手くいっても
失敗しても、二階級特進を約束しよう。万が一でも、家族に対しても十分な補償をす
るつもりだ」
「分かりました。やってみましょう」
二階級特進という言葉に、意思を固めたような艦長達だった。
アムレス号艦橋では、フォルミダビーレ号のアントニーノ・アッデージ船長とビデ
オ会話するアレックス。
『子爵の艦艇が合流するらしいな』
「その通りです」
『気をつけろよ。子爵は食わせ者だ』
「どういうことですか?」
『端的に言えば、子爵は侯爵の腰巾着ということ。祖先が侯爵から爵位を与えられた
からな。上には逆らえない』
「分かりました。気を付けます」
『うむ。頑張れよ』
通信が途切れた。
アーデッジ船長は、今回の遠征には参加せず海賊基地で待機していた。