第三章
Ⅹ 荷電粒子砲  惑星ベルファスト近縁を通過するアムレス号と追従艦隊。 「惑星軌道上に三隻の艦艇!」  レーダー手のライオネル・エムズリーが報告する。 「相手艦より入電しました」  ボビー・ハイアット通信士が続く。 「繋いでくれ」 「了解!」  ハイアットがアレックスの端末モニターに通信を繋いだ。 『こちら惑星ベルファスト艦隊、駆逐艦グラスゴー指揮官ボールドウィン・バートル ズ中佐です。カーライル子爵より閣下の指揮下に入るように命令されました』  敬礼して挨拶する中佐が映し出されていた。 「お疲れ様です。子爵様よりお話は伺っております。よろしくお願いします」 『こちらこそ、よろしくお願いいたします』 「艦隊司令官ランドルフ・タスカー中将の指揮下に入って頂きます」 「かしこまりました」  こうしてカーライル子爵配下の艦艇がアレックスの艦隊に加わった。  そうこうするうちに、惑星ベルファストを離れつつあった。 「ベルファストの絶対国防圏を離脱しました」  カトリーナが報告する。 「そうか……。ここいらで一発粒子砲を試射してみるか」 「粒子砲? 主砲ですよね」 「そうだ。いざとなって使い方が分からないでは済まされないからね。一時間後だ」  ロビーを通してコンピューター全自動でも動かせるのだが、人力で動かすことにも 挑戦する必要もある。  人力で動かすには手順が必要だ。 「分かりました」  納得してから艦内伝達を行うカトリーナ。 「総員に告ぐ。これより荷電粒子砲の発射テストを行う。各自、マニュアルを熟読し て待機せよ。発射一時間前である」  そして警報ボタンを作動させた。  陰イオン荷電粒子砲発射制御室。  カトリーナが告げる艦内放送に耳を傾ける乗員達。  教官が自分に配られたマニュアル用タブレットを表示して見ている。  各項目から訓練・発射テストを探し出して、 「よおし、各自の操作盤の表示が訓練・試射モードになるように設定しろ!」  と指示する教官。 「了解!」  返事をして手元の操作盤を動かす乗員達。  そして、 「設定しました!」  とすぐに手を挙げる。 「よし、次に……」  手順書通りに発射テストに向けての行動を続ける乗員達だった。  もし手順を間違えると、警告表示が出て訂正するように指示がでる親切設計となっ ている。  手順は進んでいき、 「発射準備完了しました!」 「よし、経過時間二十分だな。時間があるし、もう一回やってみよう」  と、教官が進言する。  今回彼らがテストしているのは、陰イオンとは言っても最も基本の電子を扱う回路 系だった。電子顕微鏡やレーダーに使われる電界型進行波管から電子を打ち出してさ らに加速させるものである。  ただし、陰イオン荷電粒子砲の真骨頂は、反陽子を使用する場合である。反物質を 使用するので扱いは超厳重でなければならない。万が一の人間のミスも許されないの で、この時だけはコンピューターによる完全自動化によって使用される。
     
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