第三章
Ⅰ 爵位譲位式
爵位譲位式当日。
これからアレックスが譲位される伯爵位は、ロバート・ハルバート伯爵の祖先が旧
アルデラーン公国公王より叙爵(じょしゃく)されたものである。以降代々爵位を受
け継いできていた。
宮廷の周囲を報道機関が取り囲んでおり、報道合戦を繰り広げていた。
『ここは、ハルバート伯爵様の宮殿前広場です。これから爵位譲位式を控えて、我々
を含めて多くの報道関係者がひしめき合っています』
『こちらは、宇宙空港です。空港の中央に静かに佇んでいる船は、歴史上最強と噂さ
れる戦艦アムレス号で、ロストシップとも呼ばれています。かつてケンタウロス帝国
艦隊と、たった一隻で互角に渡り合っていたと言われています』
『第八十七代国王、クリスティーナ女王の第三王子フレデリック様が建造、その王妃
様がコンピューターを設計されました。お二人は科学者として秀でていらっしゃって、
王立造船所にてこの船の建造設計を二人で協力して指揮されておりました』
変わって宮殿内。
共同代表テレビ局が独占放送を行っており、全宇宙に向けて先進波放送を中継して
いた。
『こちらは、ハルバート伯爵廷において行われる「爵位譲位式」の会場であります』
中央を壇上に向かって一直線に伸びる真紅のビロードの絨毯が敷かれている。その
両側に立ち並ぶ参列者達。貴族や大臣、提督の位にある軍人。そして列の末席には、
士官学校生のデイミアン達も何故か呼ばれて並んでいた。
高らかなファンファーレが鳴り響き、館内全体に響き渡る大声で近衛兵が伝える。
「アレックス・ハルバート殿下のご入来!」
館内が一斉に静かになった。
宮廷音楽隊によって緩やかな行進曲が演奏され、アレックスが入場してくる。
『殿下が入場されました。絢爛豪華な王族の衣装に王錫を手に携え、ゆっくりと壇上
に向かって歩いておられます。一歩遅れて殿下が乗ってこられた船の管理者(admini
strator)が控えています。そのすぐ後ろには侍従長が宝飾品を大切に携えて続いて
います。この宝飾品は旧トラピスト星系連合王国に伝わる「王位継承の証」と呼ばれ
るもので、王家の正当なる継承者を示す国宝です』
貴族達の間で、ひそひそ話をする者がいる。
「噂では、あの国宝とかいう宝石は、伯爵の宝物庫から盗まれたものだと聞くじゃな
いか。それが彼の元にあるというのが解せないです」
「その宝石を盗んだのが、あそこにいる管理者らしいじゃないか。殿下が廃嫡される
時に、乳母として勤めていた彼女が盗んだんだ」
「つまり宝石は、彼女が密かに守り続けていたということなのか?」
「しかも例の船の管理者なのだろう? 一体何者なんだ、何百年も生き続けていたと
いうのか?」
「しっ! 始まるぞ!」