第三章
Ⅱ 新伯爵誕生  儀式は順調に進み、戴冠式に相当する戴珠式が行われる。  『王位継承の証』であるエメラルドの首飾りを、前伯爵であるロバート・ハルバー トが、アレックスの首に掛けるのが爵位譲位のしきたりである。  新しい伯爵となったアレックスが所信表明を述べることとなった。 「かつて、銀河渦状腕『たて・ケンタウルス腕』を渡り、最初の国家を興した初代の 王は、公正な経済・社会を築き上げ、持続的な発展を通して国民の生活水準を向上さ せた。私は、この遺産を継承する。  そのためにももう一度、分裂したアルデラーン公国を再興する。  旧アルデラーン公国の各国領主に使者を送り、指導者と連携を取り合い維持してい くこととする。  移民船として公国の民を運んてきたロストシップと、王位継承の証であるこのエメ ラルドの首輪がこの手にある限りその資格はある。  今一度アルデラーン公国を再興するのだ!」  割れんばかりの歓声が沸き上がった。  そして国歌が流され、一同が曲に合わせて歌いだす。 『神の御慈悲は  この御土のみでなく  そのくまなきに知らるる  主はこの御国に、この広き世界の  私たちが本当にそうあるべきであること、  全て人間は一つ兄弟たり、  一つ家族たることを知らしめす』  歌い終わると、掛け声がかかる。  Hip Hip Hooray(ヒップ・ヒップ・フーレイ)  誰か一人が「Hip hip!」と掛け声をかけ、周りの人たちが 「Hooray!」と応えて、それを三回繰り返す万歳三唱。  旧アルデラーン公国においては伯爵位とはいえ、自治領であるこの惑星サンジェル マンでは国王ということになる。  館内の様子を見るに、新国王となったアレックスの地位は確固として認められてい るようだ。  こうして伯爵位譲位式は幕を閉じた。  数時間後。  アムレス号に一旦戻ったアレックスは、フォルミダビーレ号の乗員と連絡を取った。  通信モニターに映し出されたアントニーノ・アッデージが開口一番、 『やあ、譲位式のTV放送を見たぞ。ついに一国一城の主となったのだな。おめでと う!』  と、祝辞を述べた。 「ありがとうございます」 『それで今後の俺達は、どういう処遇になるのかな?』 「これまで通りですよ。この国の軍隊は一度も戦ったことがないようです。百戦錬磨 のフォルミダビーレ号の仲間達がいれば大助かりです」 「そう言ってくれるのは有り難いが、俺達は海賊だ。国家の軍隊に組み入れられるこ とは願い下げだ」 「そう言うと思いましたよ。あなた方は国家公認の私掠船(しりゃくせん)として自 由奔放に暴れ回ってください」 『いいのか?』 「もちろん、中立地帯の基地にいる海賊仲間も加えても結構です。ただし、私の領土 内はやめて頂きたい」 『あはは、分かっているよ』  こうしてアレックスは惑星サンジェルマンの自治領主となり、海賊達とも共同戦線 を張って、自身の目的であるアルデラーン公国の再興に向けての足掛かりを得たので ある。
     
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