第二章
Ⅵ 勝敗  接近する魚雷を避けようと急速転回するデイミアン艦。  艦橋では息を飲んで成り行きを見守っている。  最善の手順を取ったはずだ。 「魚雷接近中!」  全員が祈った。  その祈りが通ったのだろうか、魚雷はかすれ通った。 「魚雷、通過しました。艦に損傷なし!」  全員、ホッと胸を撫でおろした。 「敵艦の位置は?」 「下方左舷七時の方向。こちらに向かって来ます」 「迎え撃つ! 回頭!魚雷装填!」 「魚雷接近中! 第二波」 「速い! 行動が読まれているのか?」 「低軌道にいる奴らの方が、加速・転回が素早くできますからね」  衛星軌道上を動く物体には、GMm/rという位置エネルギーと1/2mv2乗と いう運動エネルギーを持っている。(ケプラーの第二法則)  全エネルギー=(1/2)mv2 + GMm/r = -GMm/2r が全エネルギー となる。  無限遠点を基準(0)とすると、軌道上の人工衛星の位置エネルギーはそれより低 いので、式の上では「マイナス」になります。  G=万有引力定数、M=惑星・衛星質量、m=物体の質量、v=物体の速度、r= 軌道半径。  低軌道に人工衛星を打ち上げるには低エネルギーの小型ロケット(イプシロンロケ ット)でも良いが、より高軌道(静止軌道など)に打ち上げるには多段ロケットなど の大型ロケット(H2・H3ロケット)が必要なのはこのためである。  艦に激震が走った。  警報が鳴り響く。 「魚雷命中!」  魚雷が命中したものの、それは模擬弾であり、船は訓練艦である。  多少艦がへこむだけだが、その衝撃指数を計測して艦内の戦闘コンピューターが実 弾だった時の想定被害を算出する。 『魚雷機関部ニ被弾シマシタ。航行不能、直チニ戦列ヲ離脱スルヨウニ』  合成音声が流られたかと思うと、自動的に戦闘システムがダウンした。 「出会ったばかりなのに、やられたな」 「嵌(は)められましたね」 「相手方より入電しました」  ボビー・ハイアット副操縦士が伝える。 「繋いでくれ」 『勝負は付きました。空港に戻りましょう』  アレックスだった。 「分かった。空港でな」  通信が途切れた。 「よおし、戻るぞ」  デイミアンが指示する。 「了解。空港へ帰還します」  衛星ロナンを離れて、士官学校併設空港へと進路を変えた。
     
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