第二章
Ⅰ 士官学校  数日後、アムレス号にいるアレックスの元に、伯爵から爵位譲位式の日程表が送ら れてきた。 「これで、この惑星は君のものになるのだな」  アーデッジ船長が、右手で顎をなでるようにして呟いた。 「まだこれからですよ。国民の信頼を得なければ、まともな政治は行えません」 「政治か……君の口から、そんな言葉を聞けるとはね。出会ったばかりの頃からでは 信じられない大変貌だな」 「僕もエダさんから告げられるまでは、孤児院育ちの一般少年でしかなかったですか らね」 「それもこれも、私が君を浚ったことが発端だ。感謝したまえ」 「はいはい。感謝しますよ」 「さてと、これからどうするのかな」 「まずは譲位式を終わらせてからです。それからでないと何も始められませんから」  その日から、譲位式に向けての準備を進めれると同時に、爵位相続人として、ある 程度の国家権力を与えられたのを機に、ケンタウロス帝国に対抗するための軍備増強 計画を立て始めた。  その足でまず最初に訪れたのは、軍の士官学校であった。  軍士官学校は、伯爵廷や市街のある場所から遠く離れた場所の海沿いにあった。  学校の上空に突如として現れた超巨大な宇宙船に、校舎・校庭にいる学生達は、驚 きの表情を隠しきれない。  上空の船を指さしながら、互いに見つめ合うしかできなかった。  船から一隻の舟艇が飛び出して、校庭に舞い降りる。  乗船口から降りてくるアレックスとエダ、そして護衛役のマルキオンニ隊長。  すると、校舎から軍服を着こんだ教官らしき男達が出てきて、アレックスを取り囲 む。  すかさず銃を身構えるマルキオンニ隊長。 「おっと、何も致しません。銃を納めて下さい」  アレックスが頷くのを見て、銃を納める隊長。 「私は、当士官学校の校長、スティーヴ・ウィンストンです。王子殿下でいらっしゃ いますね?」 「はい。アレックスと申します」 「王子殿下、このような場所にはいかような御用でしょうか?」 「うん。優秀な学生をトレードしにきました」 「トレード? ともかく中へ入りましょう」  案内される道中、出会う学生達が立ち止まり校長に対して敬礼をしつつ、通路の陰 では興味津々でアレックス達を伺っている。  校長室の前に近づくにつれ、教官達が意外な人物の登場に驚きの表情を隠しきれな い様子だった。  案内されて校長室の応接間に入るアレックス達。 「それでは改めて伺いましょうか」 「自分の船は、極端な人手不足でしてね。ここで人材募集をしようと思います」 「人材募集ですか?」 「特に、戦闘機乗りが沢山必要です」 「パイロット? 何人ほど必要ですか?」 「そうでね……百五十人、他に甲板要員。航海・船務要員など総勢三百人は必要です ね」 「パイロットが百五十人! まるで空母クラスではないですか! ほとんどパイロッ トなどのいない状態で航行していたのですか?」 「そうです。船は全自動航行システムを搭載してので、ほぼ無人でも操舵できて、単 純な戦闘も可能なのです。だが、本格的な戦闘となると航空戦力が必要となります」 「しかし、ここは士官学校です。即戦力となる人材とはならないと思いますが?」 「それは船の中で実地・実戦で育成していけばいいでしょう。もちろん教官も一緒に 同乗してくれれば完璧です」 「なるほど……動く学校ということですな」 「その通りです」  ドアがノックされる。 「入り給え」  ドアが開いて一人の女性が、テーブルワゴンを押して入室してきた。  静かに二つのカップにお茶を注いで二人の前に差し出した。 「ああ、カトリーナ君すまないね」 「どういたしまして」  軽く会釈するアニタと呼ばれた女性。士官学校の制服を着ていた。  ブロンドの髪に青い瞳をしたプロポーションもなかなかの美人だった。 「この子は、カトリーナ・オズボーン、戦術専攻科の二年生。この学校で優秀な成績 を収める模範生です」  しげしげと見つめるアレックスに気づいて頬を赤らめる女生徒。  明らかに自分よりも若いと思われる少年が、空に浮かぶ巨大宇宙船から降りてきた ことに興味も抱いている様子だった。 「必要な人材のリストを後日送りましょう」 「分かりました。こちらも大まかな人選を進めておきます」 「よろしくお願いいたします」 「校舎内の査察などいかがですか? 案内させますよ」
   
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