第二章
Ⅱ 学生達
ハルバート伯爵廷から東へ山を越えた先にある広けた海岸線に、ベルファスト士官
学校がある。
校庭では、教官の掛け声に合わせて体力鍛錬を行っていた。
宇宙戦士といえども体力は必要である。
無重力の宇宙では、骨のカルシウム溶解が避けられず、日頃からしっかりとカルシ
ウムを蓄積しておかなければ、地上に戻った時に歩けなくなる。
そんな風景を校舎内から眺めるアレックスと案内係りのカトリーナ・オズボーン士
官候補生。
続いて立ち寄ったのは、戦術シミュレーション作戦室で、筐体に入って仮想敵艦隊
との戦闘訓練を行っていた。
「よお、カトリーナ」
通路の向こう側から歩いてくる一団が声を掛けてきた。
「デイミアン!」
どうやら知り合いのようである。
「編入入学者の案内か?」
「いいえ……」
カトリーナが次の言葉を紡ぐ前に、
「こいつ、例のロストシップの関係者じゃないすか?」
後ろにいた学生が、校庭に駐船している船を指さした。
「なるほど、美女が船に乗ってやってきたとか言っていたみたいだが、そいつのガキ
か? 七光りで編入試験なしで入学してきたのか」
リーダー格の学生が睨みつけてくる。
「所属希望はどこだ? まさか戦術士官志望じゃないだろな」
「こんな奴が指揮する艦に乗った奴は無駄死にするな」
「せいぜい主計科給仕係りがいいとこだろう」
次々と軽口を吐いて笑い出す学生達。
「何を言っているの! この方は……」
と真実を言おうとしたカトリーナを制止するアレックス。
「いいでしょう。あなた方の能力を知りたいので、模擬弾装填した訓練艦で戦闘訓練
を実地で行いましょう」
アレックスが提案する。
「模擬弾?」
「実地戦闘訓練だろ?」
ガハハハッと腹を抱えて大笑いする学生。
それには耳を貸さずに、
「カトリーナさん。訓練艦はありますよね?」
と尋ねるアレックス。
「はい。ございますが、使用には校長の許可が必要です」
「なら結構、多分大丈夫でしょう」
学生達に向き直って、
「あなた達と自分の信頼する仲間とが訓練艦に乗船して戦闘訓練を行います。準備が
整い次第開始しますので用意しておいてください」
しっかりとした眼つき口調で言い放つアレックスだった。
「おいおい、本気かよ」
「いいじゃないですか、滅多に実地の戦闘訓練なんてできないんですから」
「よおし、やってやろうじゃないか、艦を用意できるならやってみな。相手になって
やるよ」
学生達も本気になってきたようだ。
「カトリーナさん、校長室に戻ります」
「分かりました」
戦闘訓練として、士官学校用意の訓練艦ということになったが、もし用意できなけ
ればフォルミダビーレ号のバウンティー号とアムレス号搭載の大型戦闘機を使用する
つもりだった。
しかしそれでは、アレックス達に絶対有利となるところだった。
校長は目を丸くして驚いた。
「訓練艦を用意することはできますが、大丈夫なのですか? 一人では動かせません
よ」
「大丈夫。信頼できる船乗りなら揃っていますから」
エダに目配せするアレックスだった。
三日後、士官学校に隣接する軍用空港に二隻の訓練艦が並べられた。
教官と整備士達に見守られながら、二隻の間に立ち並ぶ学生達とアレックスの仲間
達。
もちろんアレックスの列に並ぶのは、エヴァン・ケイン以下の少年達で、戦闘経験
豊富な海賊仲間は一人もいない。
居並ぶ少年達を訝しげに見つめる学生達。
「まだ子供じゃないか。いいのか?」
自分達より若い少年を見て、デイミアンが質問する。
「大丈夫です。皆、戦闘経験はありますから」
アレックスが平然と答える。
「戦闘経験、まさか実戦じゃないだろうな」
「もちろん生死を分ける実戦ですよ」
「ケンタウロス帝国の軍艦とも戦って勝ったぜ。リーダーの指揮でね」
マイケル・オヴェットが横やりを入れる。
「ほんとかよ?」
疑心暗鬼の学生達。
「とにかく心配はいりません」
「そうか、分かった」
相槌を打つデイミアンだった。