第一章
Ⅵ  宇宙空港に着陸しようとするアムレス号。  周囲には放映しようとする報道機関のカメラが狙っており、強力な照明が当て られていた。その光を浴びながら、静かな湖面に白鳥が舞い降りるように、その 雄姿を滑走路上に横たえた。  報道合戦が始まっていた。 『ご覧になられるでしょうか。只今、宇宙空港に着陸した船には、旧トラピスト 星系連合王国の王家の後継者と名乗る人物が乗っておられるようです』 『目の前に着陸した船は、遥かな昔のトラピスト星系連合王国にて建造され、ケ ンタウロス帝国と戦い連戦連勝するも本国が敗れ降伏したために、王国の民を引 き連れて新天地へと旅たち、長い年月を経て我々アルビオン共和国の創建を担っ たのです』 『只今、船の乗船口が開きました! 誰かが出てきます』 『少年です! 少年が現れました。続いて女性が……引率者というところでしょ うか』 『あの少年がトラピスト星系連合王国の王家直系ということなのでしょうか?』 『少年がタラップを降りています。出迎えるのは、親衛隊のブレンダン・ゲイテ ィス少将です』  空港に降り立った少年と挨拶を交わすゲイティス少将だった。  少将に案内されて空港ロビーへと入っていった。  その頃、衛星軌道上で待機しているフォルミダビーレ号、報道ニュースが船内 に流されていた。 「下では、大騒ぎになっていますね」  リナルディ副長が、不思議そうな表情で言った。 「だろうな。ある日突然、王様となる人物が出現したんだからな」  とは、アーデッジ船長。 「俺達が彼を浚ってなければ、今も孤児院でメソメソしてたかもね」 「どうかな。彼のことだから、孤児院を出てから才能を発揮して立身出世、国家 を動かす人物に成り上がっているかもしれないな」 「なんにせよ、彼にはロストシップという強力な軍事力を有していますからね。 言うことを聞かなければ力尽くということもできます」 「それはどうかな。彼の性格上、無理矢理押さえつけて従わせることはしないだ ろう。つまり圧政になることを意味するからな」  宮殿謁見の間。  玉座に座るハルバート伯爵。  傍に控えてロベスピエール侯爵と三男坊が立っている。  その視線は、正面に取り付けられたパネルスクリーンに釘付けだった。  宇宙空港に着陸しているロストシップことアムレス号の雄姿が映し出されてい る。 「ロストシップか……。誰か詳細を知っている者はいるか?」  伯爵が尋ねるが、艦艇の事情通の軍人ですら首を傾げていた。 「噂では、一飛び一万光年ワープできるとか、ブラックホールを搭載していると かは聞いたことがあります」  数百年前の船の情報通などほとんどいないであろう。噂で聞き耳した程度でし かない。  しばらくして扉の前で騒いでいる声が聞こえた。  衛兵が不審人物の接近で尋問しているようだ。 「来たか……」  呟く伯爵。 「通してくれ」  指示を受けて、扉を開け衛兵に伝える従者。 「通してよし!」  扉の両側で不審者を阻止せんと斜め十字に構えていたランスを降ろす衛兵。 「どおぞ、お通り下さい」  丁重に迎える従者。  案内されて中へと進む一行だった。  アレックスとエダ、護衛役のエルネスト・マルキオンニ白兵部隊長がビロード の絨毯の上を歩んでゆく。 「よくもおめおめと舞い戻ってきたな」  伯爵は、エダを睨め付けていた。 「何を仰いますか。両目の色が違うというだけで、我が息子を放逐する親がどこ におられますか?」  エダが少し怒った表情で反論する。 「我が血筋から障碍者を出すことを危惧しただけだ」 「そんな安易な考えをなさっているから、数百年ぶりに現れた逸材を見逃すので す。そう、伝説のロストシップ船長の後継者をね」 「ロストシップ? 聞いたことがあるぞ。あの船がそうだというのか?」  ロベスピエール侯爵が口出しをした。 「そうです。そうでなければ、今ここにいるわけがありません」 「まさか……」  意気消沈気味の伯爵だった。  アレックスが前に踏み出す。 「自分の息子であり爵位後継者たる私を、障碍児だとして放逐したあなたを許す ことができません。今ここで譲位を要求します」  毅然とした態度で要求を突きつけるアレックスは、そばに控えている侯爵にも 進言する。 「ロベスピエール侯爵でしたね。あなたには、譲位の承認をお願いしましょうか」  突然振られて驚く侯爵。  自分の所有する艦隊を撃破されて、ただならぬ相手であることを痛感している ので、言葉に詰まり反論する機会を失っていた。  その時、一条の光が伯爵の額を照らした。  眩しがる伯爵にアレックスが警告する。 「地上の船、そして上空の船、どちらからでもあなた方を狙撃するこが可能です」 「できるのか? 伯爵を撃つ瞬間に、君が撃たれるぞ」  その声で、衛兵が銃を身構える。  しかし次の瞬間、その銃を弾き飛ばされていた。  マルキオンニが素早く反撃したのであった。
   
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