第一章
Ⅲ 応戦  アムレス号の船橋。  アレックスとエダの前にあるスクリーンに、ロベスピエール侯爵とハルバート 伯爵が映し出されている。  スクリーンの伯爵が尋ねる。 『君は何がしたいんだ?』 「王位継承の証がこちらにあります。分裂してしまったアルデラーン公国を再興 します」 『すると何か? 君が公国の王を名乗るというのか?』  侯爵が憤慨した声で質問した。 「そうです。分裂したままだと、いずれケンタウロス帝国の侵略を許してしまい ます。それを許さないためにも、一刻も早く防戦できる体制を整えなければなり ません」  ケンタウロス帝国は、オリオン腕内の領域を平定した後、銀河渦状腕間隙に掛 る『レマゲンの橋』を渡ってペルセウス湾に到達して、支配領域を広げていった。 そして銀河系の反対側、地球からは観測不可能な領域目前まで迫っていた。  その領域は、ケンタウロス帝国とアルデラーン公国、そしてトリスタニア共和 国が接する国際中立地帯となっていた。最も遅くそこへ到達した帝国は、侵略す る前に自国を富国強兵することを最優先に行っていた。  そして、十分な兵力が蓄えられて、そろそろ侵略を始めようかという趨勢とな っていたのだ。 『ちょっと失礼します』  侯爵船から割り込み通信が入った。 『向こうの船の後方にとんでもない奴が隠れていました』  と、画面が切り替わって後方に待機していたフォルミダビーレ号を映した。 『なんだ?』 『この船は、トリスタニア共和国から国際手配されている海賊船です』 『海賊船だと!』 『間違いありません』  王族を名乗る相手が海賊だと知り、怒り心頭を発する侯爵。 『君は海賊なのか?』 「否定はしません。孤児院にいるところを、海賊に拾われたんです。この船アム レス号を発見できたのも、彼らのお陰です」 『たばかったな! その宝石も奪い取ったものだろうが! 認めんぞ!』  通信が途切れた。  十数分後、前方の艦隊が動き出した。 「前方艦隊にエネルギー反応増加が伺えます。どうやら戦闘態勢に入ったようで す」 「応戦準備だ。フォルミダビーレ号にも連絡」 『了解シマシタ』 「敵艦を撃沈させてはいけない。動きを止めるだけだ。エンジン噴射口を狙え」  アレックスの考えは、アルデラーン公国の再興であるから、宥和政策は大事で ある。  相手が撃ってきたからといって反撃・撃沈してしまっては、味方にはなっては くれない。 『噴射口を狙えだって? そりゃ難しいな』  アーデッジ船長が愚痴をこぼす。 「お願いします」 『分かったよ。やればいいんだろ』  向き直って戦闘指示を出しているアーデッジ船長だった。 『敵艦ヨリ、ロックオンサレマシタ』 「小ワープ準備! 目標、敵艦の左舷側近接」 『目標設定シマシタ』 「敵艦撃ってきました!」  エダが言うのと同時に、 「ワープ!」  アレックスが下令する。  敵艦の目前で消えるアムレス号。  敵艦の放った攻撃が宙を舞った。  敵艦隊旗艦艦橋。 「敵船、消失!」  レーダー手が報告する。 「なんだと! ワープしたのか?」  どこへ行ったのかと焦る司令官。  次の瞬間だった。 「敵船出現しました。左舷七時の方向です」  レーダー手が金切り声を出す。 「後ろか! 回頭だ、取り舵一杯!」  だが、敵船の攻撃の方が早かった。  激しい震動が艦内を揺らした。 「艦尾に被弾!」 「損傷を報告しろ!」 「エンジン噴射口を破壊されました」 「補助エンジンに切り替えしろ!」 「それでは、戦闘速度が出せません!」 「二番艦、三番艦もエンジンをやられました」  唇を噛んで悔しがる司令官。 「機動性がまるで違う。歯が立たない」 「敵船より入電。停船せよ、撃沈はしないから降伏せよ」  無傷な艦がまだ三隻残っていたが、このまま戦っても損害を増やすだけなのは 明白な事実だった。 「分かった……停船だ。降伏の意思表示を」  停船して、降伏の信号弾を上げる旗艦。
   
11