第七章
V 再びトランター  恒星トラピスト1第四惑星、旧トラピスト星系連合王国首都星トランター。  その衛星軌道上にアムレス号がワープアウトして出現した。 「見つかるとやばいな」  アレックスが呟くと、 「船影を消去しましょう。船が目視やレーダーに映らないようにします」  エダが応えた。 「やってください」 「分かりました。超越量子光学迷彩を発動!」 『了解。Hyper Quantum stealth mode ニ入リマス』  光を含む電磁波の反射方向を制御したり閉じ込めたりする『メタマテリアル (meta-material)』という人工物質がある。いわゆる光学迷彩または透明マント というもので、それで物体を覆えばまるで姿が消えたようにみえるという技術である。 『システム動作確認シマシタ』 「消去終了。これで見つかりません」  エダの報告に言葉を返すアレックス。 「よし、しばらくこのままで情報収集しよう。アーデッジ船長や仲間達そしてフ ォルミダビーレ号の居場所をね」 「かしこまりました」  そんな二人と一機の会話を着ていた少年達。 「エダさんとアレックスが、大昔の関係を引き継いで主従関係にある事と、この 船の所有者が彼であることも理解しました。船長達の救出に僕達も参加させてく ださい」  熱弁する少年にエダがアレックスに確認する。 「いかがいたしますか?」 「もちろんだ。仲間を全員救出するには一人でも多い方が良い」  アレックスが同意すると、 「よしっ! やったぜ」  と、拳を握る少年達だった。  数時間後、惑星の放送聴取やネット探索によって、アーデッジ船長の処刑日や 仲間の所在が確認された。 「ロビーはフォルミダビーレ号の運用コンピューターに侵入アクセスして自動操 縦で離脱させよ」 『了解。フォルミダビーレ号ニ、アクセスヲ試ミマス』 「マイケル、船の自動操縦装置のアクセスコードは覚えているよな」  フォルミダビーレ号の副操縦士を担っていたマイケル・オヴェットに確認する。 「もちろんだぜ」  答えてロビーにコードを伝えるマイケル。 「残りの四人は、仲間が捕らえられている牢獄に潜入して救出すんだ。リーダー はブルーノだ」 「分かった」  体育会系で白兵部隊要員だったブルーノ・オヴェットが承諾する」 「僕とルイーザさんは、船長を救出する」 「分かったわ」  淡々と役割分担を決めるアレックスだった。  普段は無口で頼りない感じの彼だったが、こういう時の判断力と決断力そして 指揮能力にかけては、他に並ぶ者はいなかった。 「能ある鷹爪を隠す」  と誰かが言っていた。  救出決行の時刻が迫っていた。  地上の放送局では、アーデッジ船長の公開処刑準備の様子が流されていた。 『まもなく海賊アーデッジ船長の処刑が行われます。ご覧ください、これが処刑 台です』  処刑場となる宮殿前広場には、X型の張り付け台が設置され、囚人の到着を待 つばかりとなっている。  周囲には、公開処刑を見届けようと民衆が集まっていた。  必要以上に内側へ乗り出さないように、兵士達がバリケードを張っている。  視点が変わって牢獄が映し出される。 『ここは死刑囚が収監されている監房です』  重厚な扉が開いて、捕縛され両脇の兵士に連れ出されるアーデッジ。 『あ、船長が出てきました。これから死刑台へと連行されてゆくところです』  どうやら死刑までの一部始終を放送する許可が出されているようだった。  後ろについている兵士に銃を突きつけられ逃げ道はない。  再び視点は処刑場へと移る。 『まもなく公開処刑の時刻が近づいています。あ、只今船長の姿が現れました。 兵士に連行され、心なしか緊張しているのでしょうか? 船長の目には処刑台は どのように映っているのでしょうか?』
     
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