第六章
Ⅳ エダ    その女性は『エダ』と名乗った。  旧トラピスト星系連合王国の王族の一人、フレデリック第三王子に仕えており、 後にその息子アレクサンダー王子の従者となった。  それから数百年後、彼女がどうして今日まで生き伸びてきたかは謎である。  アレックスはルイーザと共に、エダに案内されてとある部屋にたどり着いた。  そこには二つの冷凍睡眠カプセルが安置されていた。 「この施設を建設された旧トラピスト星系連合王国第三王子フレデリック夫妻の ご子息、アレックス様ご夫妻のご遺体です」  それから、親子二代に渡ってレジスタンスとして活躍した時代背景の解説をす るエダ。 「なるほど……」  感心するアレックスとルイーザだった。  その後、アレックスの深層意識の映像のことと、ロストシップのことを離すル イーザ。  興味津々の表情で耳を傾けるエダ。 「さてと……あなた方がロストシップと呼ぶ戦艦を捜しているということは理解 しました」 「ご存じないでしょうか?」 「そうですね……」  とここでアレックスの方を見つめてから、 「アレックス様がいなければ、知らないと答えるところですが、ご本人を前にし て嘘もつけないでしょう」 「船をご存じなのですね?」 「はい。あなた方の求めている船は、ここアンツーク星にあります」  その頃、海賊ギルドのアジト。  少年達がアンツーク星にて消息不明になったという報告が、レンタルショップ から連絡がきていた。  アントニーノ・アッデージ船長は意気消沈していた。 「レンタルシップ損失に対する損害賠償請求が届いています」  会計係が書類を手渡す。 「船が破壊されたというのは事実なのか?」 「確かです。レンタルショップの事故調査班が、惑星地表で破壊された船の残骸 とフライトレコーダーを発見しているそうです」 「ルイーザと少年達はどうなっているんだ?」 「遺体は見つからなかったそうです」 「ということは、生きている可能性があるな」 「まさか、捜索に出るおつもりですか?」 「当然だ。仲間を見殺しにはできない」  数時間後、海賊頭領のガスパロ・フォガッツィに面会し、捜索願いを訴えるアーデッジだった。 「許可できないな」  あっさりと船長の申し出を拒絶するフォガッツィ。 「どうしてですか?」 「女とガキぐらい見捨てても大したことはないだろ」 「しかし……」 「あきらめろ!」  取り付く島もなく、捜索願を拒絶されるアーデッジだった。  フォルミダビーレ号(for・mi・da・bi・le)に戻ったアーデッジ。 「いかがでしたか?」  副長のフィオレンツォ・リナルディが尋ねた。 「ダメだったよ」 「やはりですか」 「それでも行くけどね。放っておくわけにはいかないからな」 「裏切り行為と見なされませんか?」 「構うもんか」  船長席に深々と座り込むアーデッジ。 「発進準備をしてくれ」 「了解。発進準備!」  リナルディ副長がオペレーターに伝えると、 「発進準備!」  復唱するオペレーター。  活気づく船橋。 「機関始動!」 「船台ロック解除」 「微速前進」  ゆっくりと動き出してゆくフォルミダビーレ号。  そしてドックを通過して、宇宙空間へと乗り出した。 「ボスから連絡です」  レンツォ・ブランド通信士が報告する。 「繋いでくれ」  スクリーンにフォガッツィが映し出された。 「どこへ行くつもりだ? いや、言わずもがなか」 「ロストシップ探しを引き継ぐだけですよ」 「ギルド長の命令に逆らったんだから、除名処分だ。どこへでも好き勝手に。行 きやがれ」 「ありがとうございます」  通信が途切れた。 「除名ですか……あんな奴の下にいるくらいなら、アウトローの方が気が楽です」  リナルディ副長がため息をつく。 「しかし補給などは、自給自足になるがな」  自給自足とは、即ち商船襲撃などの海賊行為ということになる。 「大丈夫ですよ」  オペレーター達も同じ気持ちだったようだ。 「よおし、アンツーク星へ向かう」
     
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