第五章
Ⅵ トリスタニア宮殿  レンタルシップの燃料補給が終わるまでの空き時間を利用して、トリスタニア 宮殿を拝観することにした一行だった。  かつてクリスティーナ女王が統治していた頃には、多くの臣下や女官が動き回 っていただろうが、今は観光客がゾロゾロと徘徊しているだけだった。  トリスタニア王国は、女王退位の後にはケンタウルス帝国傀儡の王権となり、 やがて完全に帝国の支配下となった。  宮殿の主は不在となり、観光資源として一般公開されるようになった。  王(女王)の間に入室した一行。  一段高い場所に玉座があり、居並ぶ大臣達を前にして、国政を担っていたのだ ろう。 「王権を滅亡させられてから、王族はどうなったのかな?」  エヴァン・ケインが質問した。 「歴史的には、侵略や革命で政権が倒れた場合、王族は一族郎党が処刑されるの が常だよね」  フレッド・ハミルトンが応える。 「有名なのが、地球18世紀フランスのマリーアントワネットが革命政府に断頭 台処刑された奴だね」  マイケル・オヴェットが続ける。 「女王は処刑されていないよ。王位を譲渡した後、東宮にて隠居したらしい。正 確には幽閉されたってこと」  と、ジミー・フェネリー。 「国民から慕われていたから処刑できなかったんだよね。処刑したら暴動に発展 したかも知れないから」  そして、アレックスが推察する。 「あらあら、よく勉強したわね」  ルイーザが感心する。  実は宮殿入口で無料配布されていた案内冊子に書かれていたのであった。  豪華な調度品に感嘆しながら、宮殿内を散策少年達だった。 「ねえ、玉座とか見て何か感ずることはない?」  ルイーザがアレックスに耳打ちする。  精神科医としてアレックスの深層意識にダイブして、祖先の記憶映像を探り出 していた。 「いいえ。仮にご先祖様だったとしても、数百年も経っていますからね」  飄々と答えるアレックス。 「だよねえ……」  やはりという表情をするルイーザ。  一通りの観光を終えた少年達が、レンタルショップの元へと戻った頃には、燃 料補給と整備が完了していた。 「観光はいかがでしたか?」  係員が声を掛ける。 「絢爛豪華な宮殿が、今は使われていないというのが残念ですね」  ルイーザが答えると、 「軍事国家には不必要と思われているみたいです」  解説する係員。  専制君主制の象徴である宮殿を単なる観光資源化したのは、それまでクリステ ィーナ女王など王族に親しみを持っていた国民を宥めるためであろう。  実際にも、宮殿の清掃から修繕にいたるまで、『宮廷保全隊』と呼ばれるボラ ンティアによる民間組織が運営を担っていた。 「それでは、起動キーをお渡しします」  起動キーを受け取って、握りしめるマイケル・オヴェットだった。  これから自らの腕で船を操縦しなければならない緊張感からである。 「良い旅を」  係員に見送られながら、タラップから船に乗り込む少年達。  軽く手を振って、昇降口の扉を閉めて施錠した。
     
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