第四章
Ⅲ ロストシップ  数日後、医務室に呼び出されてアレックスの他、アーデッジとウルデリコ・ジ ェネラーリ航海長が来訪した。 「来たわね。この子、びっくりするような情報を隠し持っていたわよ」 「隠し持っていた?」  航海長が訝しげに首を傾げており、自分が呼ばれた理由も分らなかった。 「とにかくこれを見て頂戴。イメージを既視映像化したビデオよ。再生するわ」  機器を操作して映像をモニターに映し出す女医。  まず宇宙空間がモニターに表示され、やがて赤く輝く恒星が近づいてくる。 「赤色矮星だな」  航海長が呟く。  さらに恒星を回る一つの惑星が見えてくるが、その近くにもう一つの惑星、少 し離れてさらに惑星。 「この星はどこだ?」  アーデッジが尋ねると、 「そうね。この子が宇宙旅行の経験がないのなら、祖先の記憶映像ということよ」  想定される事を答える。 「つまり故郷の旧トラピスト星系連合王国の星々ということだな」 「そうなるわね。首都星トランターに向かっているところね」 「星の配列からして旧トラピスト星系連合王国で間違いないでしょう」  航海長が判断した。 「問題は、この映像がどこからのものかだ。我々の捜しているロストシップから か、それとも軍艦や旅客船からのものか、だ」 「旅客船からなら、他の乗客が映り込んでいてもよさそうですが……見たところ、 船橋なり艦橋なりからの映像だと思われます」  推測を述べる航海長だった。 「ふむ。続きはあるのか?」 「あるわよ。とっておきのがね」  意味深な含み笑いをする女医。 「とにかく続けてくれ」  急かすように言うアーデッジ。 「はいはい」  続きを再生させる女医。  暗黒の宇宙の中、不定形の惑星に近づいてゆく。 「形状が歪ですね。これは惑星ではなくて、質量が小さくて丸くなれるほどの重 力がない小惑星でしょう」 「で、位置はどこだ?」 「歴史上の記録では、ロストシップが秘密基地としていたアンツーク星だと思わ れます。ケンタウルス帝国内にあるバンデルス星域グリアント星系内の小惑星帯 にあるとされています」  航海長が解説する。 「帝国領内か……厄介だな」 「海賊船が通行していたら、即撃沈させられます。我らの海賊ギルドが帝国の傀 儡となっても、帝国領内への侵入は認められていません」  帝国と交わした協定で海賊ギルドの船が行けるのは、たて・ケンタウルス腕方 面と、いて・りゅうこつ腕方面であり、ペルセウス腕方面のケンタウルス帝国に は入れないことになっている。  二人が議論していると、 「船が着陸態勢に入りましたよ」  とモニターを指さして発言した。  言われてモニターに戻る二人。  モニターには下降を続ける地表の映像が映し出され、激突か? と思われた時 に地上がゆっくりと開いていった。その開口部に吸い込まれてゆく船は、地中に ある施設内の船台に固定された。  やがて照明に照らされて浮かび上がる船の全体像。 「これが、ロストシップなのか?」  映像からではその大きさまでは伝わってはこないが、かなり大型の宇宙船のよ うだ。 「かなり高速が出そうな船体構造だな」 「歴史上の記録では、一飛び一万光年をワープできる縮退炉エンジンを搭載して いるらしいとの噂ありです」 「あくまで噂か……。縮退炉エンジンなど、現代の科学技術を以てしても未だ実 現できていない」 「どんな人物が開発・設計してのですかね」 「ともかくだ……。ケンタウルス帝国への侵入をどうするかだ」 「この船は海賊として、帝国に知られていますから、これで行くのは不可能です」 「だとしたら、どこぞの惑星都市で民間船をチャーターして有志のみで行くしか ないか……」  顎に手をやって考え込むアーデッジ。 「フォルミダビーレ号はどうするのですか? 船長がいないと……」 「俺が行くといつ言った?」 「船長が行かれるのではないのですか?」 「だから、有志で行くと言っただろ。ソルジャーの俺がいないと、ガスパロの奴 にこの船を奪われるのは必至だ」 「では、誰が?」 「そうだな。まずはアレックス君は外せないな」 「なら、いっそ少年達を行かせたらどうですか? 船が見つかった時のために、 見習いですけど操舵手や機関士などそれぞれ船を動かせる要員として十分でしょ う」 「それはいいが、お守り役が必要だな」 「ルイーザが適任では?」 「うむ。有能なレーダー手がいなくなるのは辛いがな」
     
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