第四章
Ⅱ 精神鑑定  医務室に入ったアーデッジ。 「船長、一体何があったのですか? 騒がしかったですけど」  首を傾げて尋ねてくるオフェーリア・ザッカリーニ精神科医。 「ここに兵士がなだれ込んで来なかったのですか?」 「来ましたけど、『ここは医務室ですので出て行ってください』と言ったら素直 に出ていきましたから」 「なるほど、医者は兵士にとっては神様だから逆らえないということかな」  そこへアレックスが入室してくる。 「ここへ来るようにと言われました」 「おお、来たな」  と言いながら、女医に向かって、 「この少年は、旧トラピスト星系連合王国の末裔らしい」 「旧トラピスト……って、ケンタウルス帝国に滅ぼされたあの惑星国家?」 「そういうことだ」 「それでどうしろと? 遺伝子レベルでの血縁関係を証明するのかしら?」 「ロストシップというものを知っているか?」 「ロストシップ? 聞いたことないわね」  医学者が、軍関係のことに疎いのは当然だった。 「まあ、聞いてくれ。ロストシップとは宇宙一の最強戦艦と言われていて、ほぼ 無限エネルギーを生み出す縮退炉エンジンを積んでいるらしい。最後の戦闘を終 えてから行方不明になっているのだが、持ち主であるトラピスト王家のものだけ が知っていると噂されている」 「縮退炉ってブラックホールを利用した? そんな技術はまだ実現できていない はずでは」  目を丸くして疑心暗鬼の女医だった。 「それを実現した人物が一人、数百年前にいたんだよ。この少年の先祖である旧 トラピスト王家のものだ」 「で、その子孫であるこの少年をどうしろと?」 「単刀直入に言おう。精神科医なら、この少年の潜在意識の底のさらに奥底にあ る深層意識、それこそ遺伝子レベルにある祖先の意識を探ってくれ。できるか?」  無理難題の注文に驚きを隠しえない女医だった。 「とんでもないこと言うわね」 「できるのか、できないのか?」 「そうね……」  しばらく考え込んでから、 「できないことはないわね」  と答える女医だった。 「だったら頼むよ。必要な機材があるなら、大至急取り寄せる。そしてこの少年 をどう料理しても構わないから」  アレックスを指さすアーデッジ。 「どう料理してもいいのね」  アレックスの身体を上から下へと舐めるように観察する女医。 「かまわんぞ」 「分かった。この少年、しばらく預かるわ」 「よろしく頼む」  アレックスを残して医務室を退室するアーデッジ。 「前回は血液検査と遺伝子検査だったけど、今回は、私の本業の精神鑑定ね」 「よろしくお願いします」  何をされるか分からないのに、平然と落ち着いて答えるアレックスだった。 「それじゃ、初診的に軽くやってみましょうか。そこの椅子に座って頂戴」  言われたとおりに指示された椅子に腰かけるアレックス。 「では、まず目を閉じて軽く深呼吸してください」  精神治療の基本から始める女医。  心身を落ち着かせて、治療を進めやすくする効果がある。 「それでは始めますよ」
     
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