第四章
Ⅳ 旅立ち  ケンタウルス帝国にほど近い国際中立地域の宇宙空間に、フォルミダビーレ号 が停船している。  発着場で、飛行艇の発進準備が進められていた。  ここから先の帝国領には、フォルミダビーレ号では進めないので、搭載してい る飛行艇で最寄りの惑星に向かう予定となっている。  待機所で、帝国領探索隊に書類を手渡すアーデッジ船長。 「これが、君たちの身分証明書とパスポートだ。もちろん偽造書だがな」  アレックス達が書類を受け取って確認してみると、惑星サンジェルマン発行と なっていた。  言葉訛りを鑑みて、生まれ故郷にした方が良いとの判断であろう。  そしてキャッシュカードが各自に一枚割り当てられ、生活費分の金額が振り込 んであるとのこと。万が一迷子になっても困らないようにとの配慮だった。  引率者のルイーザには、現地についてからの船の手配などに必要な大金が支払 えるようなクレジットカードが手渡されていた。 「最寄りの惑星に着いたら、まずはトラピスト1の首都星トランターに向かって くれ。そこでクルーザー船をレンタルしてアンツーク星探索だ。マイケル君には、 クルーザー級運転免許も渡してあるが分かるな?」 「ああ、これですね」  免許証を掲げてみせる、マイケル・オヴェット。 「そう、それだ」  もう一人、フレッド・ハミルトンには機関士免許状が渡されており、一応ク ルーザー船の操船には問題ないということになっていた。  少年に免許状とは疑問符がつくが、軍役に着くために必要な軍人用のもので、 幼年士官学校発行のものだった。もちろん軍役に限らず私用でも有効なものだ。 「出航準備完了しました」  モレノ・ジョルダーノ甲板長が報告に来た。 「分かった」  アーデッジ船長が応える。  飛行艇の前に揃い、甲板員から出航セレモニーを受ける少年達。 「無事に戻って来いよ」 「ロストシップを発見できなくても、情報だけでも収集しろよな」 「観光じゃないんだから、気を引き締めて行け!」  口々に挨拶を受けている。 「乗船してください」  テオフィロ・パパーリア一等航海士が促す。  少年達を見送った後の飛行艇の帰還パイロットである。  飛行艇に乗り込む一同。 「行きは、マイケルが操舵するんだぞ」  背後から、アーデッジが確認する。  現地では、マイケルが操舵することになるから、パパーリアの手ほどきを受け て完璧な操船ができるように実地訓練というところだろう。 「行ってきます」  アーデッジに、挨拶するアレックス。 「総員待避所へ!」  アーデッジの下令と共に、待避所へ急ぐ甲板要員。  全員が退避したところで、場内の空気が抜かれはじめ、発着口が開いてゆく。  飛行艇操舵室。 「出航準備完了しました」  出航のための機器の確認などの準備を終えたマイケルが、管制室に報告すると、 『出発してよし!』  許可が下りる。 「出航します」  発着口から宇宙空間へと飛び出す飛行艇。  以前にまだ捕虜だった頃に、船を奪取して脱出行を図った時以来だった。  それは、フォルミダビーレ号の船員達との別れであり、アレックスら少年達の 新たなる旅路のはじまりだった。
     
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