第三章
Ⅰ 奇襲攻撃  ピトケアン星域にたどり着いたフォルミダビーレ号。 「到着しました」  アレックスが報告する。 「岩石惑星を有する恒星系を調べろ」  アッデージ船長が言うと、ウルデリコ・ジェネラーリ航海長が答える。 「恒星リンディスファーンに岩石惑星が存在します」 「その惑星に向かえ!」 「リンディスファーンb星の位置座標を航路システムに入力します」  航海長の座標データをもとに、恒星系リンディスファーンb星へと向かうこと になったフォルミダビーレ号。  やがて目的の惑星が近づいてくる。 「衛星軌道に進入! 地表及び地中をレーダー探知せよ」  船長が下令。 「衛星軌道に進入します」  マイケル・オヴェットが軌道調整し、 「超広帯域マイクロ波計測探知機用意!」  レーダー手のルイーザ・スティヴァレッティが探知機の用意を始める。 「衛星軌道に入りました」  アレックスの声に反応して、 「探知開始します」  ルイーザが探知機を操作しはじめる。  衛星軌道を周回しながら、地表を舐めるようにレーダー探知が開始される。  そのデータは、地質学者のテオドージオ・バトーニが解析している。  この時のために、アッデージ船長が臨時に雇った研究者だった。  海賊だからって、武骨な荒くれ者ばかりではないし、船を動かすには知識を持 った技術者が必要だ。医者もいれば弁護士もいる。 「惑星を探査して何があるのですか?」  アレックスが疑問を投げかける。 「そうだな。地下水脈や鉱脈を探し出せれば、補給地として開発できるな」  アッデージ船長が答えるが、 「それだけですか?」  疑心暗鬼な表情のアレックスだった。 「他には、巨大な空洞とかもあればグッドだ。秘密基地とか作れる」 「秘密基地ですか?」 「前にも言ったと思うが、我々はロストシップを捜索している。史上最強の宇宙 船と言われている船だ」 「そのロストシップがこの惑星にあり、秘密基地に隠されていると?」 「いや、それは分からない。だから探査している。何せ大昔、この星域でロスト シップが最後に見かけられたという噂だけだ」 「そんな不確かな情報だけで動いているのですか?」 「過去の歴史記録には、ロストシップがとある小惑星にある秘密基地に隠されて いたという実例があるのだよ」 「仮にロストシップが見つかったら? 海賊ギルドに接収されることはないので すか?」 「それはだな……」  と言いかけた時だった。 「後方に感あり! 高熱源体が高速で接近中! 魚雷です」  ルイーザが悲鳴のような声で叫ぶ。 「機関一杯! 全速前進せよ!」  すかさずアレックスが下令する。  一瞬、躊躇するオペレーター達だったが、 「復唱はどうした!」  アッデージ船長が怒鳴る。 「き、機関一杯!」 「全速前進!」  慌てて復唱して指示に従う。  船長を差し置いて見習い副長が先に下令したから戸惑ってしまったようだ。  速度を上げるフォルミダビーレ号は、軌道角運動量が増えたことによって、惑 星から離れる高度軌道へと移っていく。  一方の光子魚雷は、定速なために惑星に引かれるように低軌道へと落ちていき 地表に激突して爆発した。ゆえにアレックスの判断は正しかったと言える。  ルイーザが報告する。 「魚雷、外れました」 「敵の位置を表示せよ」  アッデージ船長の指示を受けて、 「モニターに映します」  惑星を点対象とするように、自船と敵船との相対位置が表示される。 「相対速度はこちらの方が若干早いようです」 「よし、速度を落として低軌道に入れ! ぐるりと回り込んで敵の背後を襲う」  アッデージ船長は惑星上空戦を仕掛けるつもりのようだ。  惑星軌道を回る飛行体は、低軌道にあるほど周回が早い。  地球で例えれば、高度三万六千キロの静止軌道にある衛星は二十四時間で一周 するが、高度二千キロの低軌道衛星は九十分ほどで一周できる。つまり低軌道で 周回する飛行体は、高軌道で周回する飛行体を追い抜くことができるというわけ だ。  軌道を下げ、低軌道で敵船の背後に回ろうとするフォルミダビーレ号。  緊急回避を成功させて安堵しながらも、速やかに回避行動を下令したアレック スを注視するオペレーター達。 「念のために聞こうか。速度を上げた理由は?」 「簡単です。ここは惑星衛星軌道だからです。速度を上げれば上昇し、逆なら下 降する。常識です」 「なるほど、孤児院育ちだろう。どうやって勉強した?」 「孤児院でも学校に行ったり図書館に行ったりできます。自分は、将来軍人にな ることが目標でしたから、戦術関連の本を読み漁っていました。惑星上空戦の常 識も学びました」 「なるほどな」
     
11