第二章
Ⅰ 襲撃準備!  国際中立地帯内にある恒星ノヴァーラを航行する海賊船。  補助運航装置であるソーラーセイルを一杯に広げて、恒星から飛来する光子やイオンなどの放射圧を受けて帆走している。恒星放射圧は、彗星などが尾を引く現象の源でもある。  セイルは、極超薄膜ながらも強靭な素材で出来ており、その表面には超薄膜太陽光発電体も貼り付けており、補助電源としても機能している。  ほぼ真空の宇宙空間には、進行を妨げる空気などの障害がないので、帆を一杯に広げても大丈夫である。  船橋には、正面に壁一面のスクリーンがあり、取り囲むように各種オペレーター達が配置されている。  指揮官席に座るアッデージ船長と両脇に立つ副長と見習いのアレックス。 「基地帰還まで三十六時間です」  言いながら航海日誌を差し出すリナルディ副長。  それを一読してから、サインして返す船長。  航海日誌には、アレックスら六人の少年を、正式に仲間入りさせたことも記述されている。 「基地より連絡あり」  レンツォ・ブランド通信士が報告する。 「聞かせてくれ」 「惑星サンジェルマンからトリスタニア共和国へ向かう大型輸送船が、現在国際中立地帯を航行中とのことです。位置は我々の至近です。以上です」 「つまり、我々にその輸送船を襲えということか……」  船長が呟いたと思うと、 「アレックス君、君ならどうするかね?」  質問をした。 「正式な襲撃命令が下されたのですか? 軍艦なら命令に従うだけでしょうけれど」  答えずに質問を返すアレックス。 「いや、我々は海賊だ。軍規というものはないので、好きにしてよい。しかし海賊組織の一員として上層部に上納金を納める義務がある」  船長の返答に、副長が追加する。 「この船の燃料・食料やら基地の使用料、船の修理・点検整備にも金と人員が必要だからね。そのための必要経費は払わなくてはならないからね」 「商船を見過ごせばどうなりますか?」 「そりゃ、他の仲間の海賊船が代わりに襲撃するさ」 「その上納金とやらは足りているのですか?」 「うむ。少し不足している」 「でしたら、襲うしかないでしょう」 「わかった」  船長が副長に合図を送ると、 「総員。襲撃準備!」  戦闘配備を下令する副長だった。 「商船の位置は、ベクトル座標α1427・β座標0028・γ座標2738を航行中です!」  通信士が、商船の位置座標を端末に入力して操舵手に託す。 「座標確認しました」  操舵手のフィロメーノ・ルッソロが報告する。  その隣の席には、操舵見習いとしてマイケル・オヴェットが座っている。 「進路転進、商船に向かえ」  副長見習いのアレックスが下令する。  巡航時には、概ねアレックスが航行の指揮を委ねられている。  戦闘時には、正規の副長であるフィオレンツォ・リナルディが担当する。 「了解! 進路転進!」 「総員全島準備! 帆を畳め、戦闘速度で全速前進!」  戦闘指揮をリナルディ副長が下令する。  補助推進と発電を賄うソーラーセイルの損傷を防ぐために、戦闘時は折りたたむのが常道だった。  甲板では、空戦隊長ロドリゴ・モンタナーリが戦闘機発進の準備を進めていた。 「おめえら、いつでも出撃できるように待機していろ!」  次々と戦闘機に乗り込むパイロット達。  マイケル・オヴェットも初乗り待機している。  複座式の戦闘機で、空戦隊長が後部座席に陣取って指揮を執ることになっている。 「初陣だが、いけるな?」 「大丈夫です」  自信たっぷりに答えるマイケル。 「いい子だ」  ブルーノ・ホーケンは、商船への殴り込みのための武装をチェックしていた。  与えられたビームライフルのカートリッジを取り付けたり外したりを繰り返していた。 「扱い方は分かったか?」  筋骨隆々の白兵部隊長のエルネスト・マルキオンニが、ブルーノの肩に手を置いて確認した。 「なんとか……」 「まあ、実地で慣れてゆくんだな」 「はい」 「味方だけは撃つなよ」  仲間の一人がチャチャを入れる。 「よせよ。初心者を怖がらせるんじゃねえよ」  別の仲間が窘(たしな)める。 『突撃隊、乗船開始せよ』  船内放送が鳴った。 「ようし、全員乗り込め!」  体長が命令する。  全員が飛行艇に乗り込んでゆく。  船橋。 「商船、速度を上げました」  船橋では紅一点のレーダ手ルイーザ・スティヴァレッティが報告する。 「気づいたか。こちらも速度を上げろ! バスタード号発進せよ」  バスタード号とは、ブルーノ達が乗り込んだ飛行艇であり、「ろくでなし」という意味の高速艇である。  アッデージ船長が下令し、 「全速前進!」  ルッソロ操舵手が応じる。  速度を上げる海賊船から発進する高速船バスタード号。  目指すは商船に積まれた宝の略奪である。
     
11