第一章
Ⅷ 仲間入り  懲罰房入りから三日後、六人の少年は釈放された。  その足で、船長室へと呼び出される。  静かな口調で語り始めるアッデージ船長。 「まもなく我々の基地に帰還する」 「基地ですか?」  アレックスが確認する。 「そうだ。その時に君たち全員の処遇が決められる」 「奴隷商人に売られたりとか?」  エヴァン・ケビンが質問する。 「ああ、そうなるだろうな。最終決断は頭領が判断する」 「頭領とは?」 「我々海賊一党の親分だ」  海賊の親分の姿を想像する少年達。 「さて、奴隷商人に売られなくする方法が一つある」 「一つ?」 「正式な仲間になることだよ」  顔を見合わせる少年達。 「僕は入るよ」  一番に同意したのは孤児院育ちのジミー・フェネリーだった。  悲しむ家族もいないし、将来のあてもないので海賊でも構わないという心境だ。 「僕は、すでに海賊のつもりだよ」  とは、空戦隊長のお気に入りのエヴァン・ケイン。 「飯がちゃんと食えるなら、海賊でもいいや」  ブルーノ・ホーケンは、いつも腹ペコである。  海賊船に来てから出された食事が結構ボリュームがあって満足していた。 「仲間になってもいいよ」  機械好きで機関部要員となったフレッド・ハミルトンは、高性能エンジンを搭 載した海賊船に興味がある。  各人それぞれ思いは違うだろうが、海賊の仲間入りには同意の意向がうかがわ れる。 「君はどうなのかね?」  アッデージ船長は、まだ意思を表明していないアレックスに尋ねる。  実際問題としては、本命の彼が賛同してくれなければ、少年達を誘拐してきた 甲斐がないというものだ。 「君はどうするの?」  という他の仲間の視線が集まる。  孤児院での彼の志望は軍人となることで、養子縁組も断ってきたくらいだ。  軍人となって、国境警備隊に配属されれば、当然海賊とも戦うことになってい ただろう。  それがこともあろうか、海賊の仲間にならないかと誘われている。  筆舌に尽くしがたい、ともいうべき心境ではなかろうか。 「で、君はどうするんだ?」  アーデッジ船長が念押ししてくる。  一呼吸置いてから、答えるアレックス。 「就いていきましょう」  仲間外れで、自分だけ逃げだすことはできないだろう。  そういう意識も働いたかもしれない。 「よし、今日から全員仲間だ」  そばに控えていたモレノ・ジョルダーノ甲板長が、書類を持ち出してきて机の 上に置いた。 「その書類に署名して血判を押してくれ」  目の前に差し出された書類を見て、 「血判状ですか?」  アレックスが確認する。 「その通りだ」  しばし、見つめる少年達だった。 「分かりました」  と、一番に書類に署名を始めたのはアレックスだった。  彼は慎重だが、決断すると行動は早い。  ジョルダーノから手渡されたナイフで指に切り傷を付け、流れ出た血液で書類 に拇印を押した。  それを見て、他の少年も同じように署名と血判を押した。 「これでいい」  書類をまとめて、棚にしまうアッデージ船長。 「祝いの乾杯をしよう」  ジョルダーノがグラスと酒瓶を持ってくる。 「あの……僕たち、未成年です」  ジミーが確認すると、 「海賊に成年も未成年もないさ」  グラスに酒を酌み、少年達に手渡すジョルダーノ。 「各自に手渡ったようだな」  グラスを持った手を掲げ上げて、 「乾杯!」  と言うと、少年達も真似て、 「乾杯!」  復唱した。  少し躊躇する少年達だったが、グイッと一気にグラスを空けた。  数時間後、酔いが回って部屋でぶっ倒れる少年達だった。
     
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