第一章
Ⅶ 出戻り  海賊船船橋。 「何だこの騒ぎは?」  休憩から戻ってきたアッデージ船長が尋ねる。 「ガキが飛行艇を奪って脱走しました」  リナルディ副長が報告する。 「全員か?」 「いえ、アレックスとかいう班の五人だけです」 「五人? 一人は捕まえたのか?」 「エヴァン・ケインです。エアロックを開けるために、一人だけ残ったようです」 「そうか」 「只今、飛行艇の軌跡を追っているところです」 「まあ、逃げられはしないがな。エヴァンを連れてきてくれ」 「分かりました」  海賊船から脱出した飛行艇。 「最寄りの惑星ブラッドフォードにコース設定」  マイケル・オヴェットが機器をセットした。 「大丈夫かな。このまま逃げられるかな?」  ジミー・フェネリーは心配そうな顔をしている。 「分からない。間違いなく追いかけてきているはずだよ」 「全速前進」  速度を上げる飛行艇。  しばらく順調に逃避行は続いた。 「まもなく中立地帯を抜けるぞ」  国家に属する軍艦や警備艇は、救援活動を覗いて中立地帯には入れない。 「救難信号発信するか?」  ここまでは、救難信号を出したくても、位置を悟られるから中立地帯を抜け出るまでは無理なので、我慢していたのだった。  少年誘拐事件を受けて、国境付近には警備艇が巡回していると思われるから、中立地帯さえ抜ければ助けられると思ったのだ。  と、警報が鳴った。 「なに?」 「接近警報だ」  船と船が異常接近をした事を知らせる警報器が鳴っている。 「船?」 「前だ!」  目前に大型の船が現れた。 「海賊船だ!」 「追いつかれたのか?」  海賊船から何かが発射された。 「魚雷だ!」  身構える少年達。  しかし、魚雷は逸れて右舷後方で炸裂した。 「警告射撃だったみたい……」  ヴィジホンに映像音声が流れた。 『逃げても無駄だ。大人しく戻ってくるんだ』  アッデージ船長だった。 「どうする?」  顔を見合わせる少年達。 『心配するな。戻ってきさえすれば命の保障はする。待遇もそのままだ。だが、どうしても逃げるというのなら撃墜する。五分の猶予を与えるから、皆で意見をまとめるんだな』  班長のアレックスに視線が集まる。  どうやら逃げることは叶わないようだった。 「僕たちの命の保障はするのですね?」  聞き返すアレックス。 『もちろんだ』  念押しするように答える船長。 「分かりました。戻ります」  決断を下すアレックス。  他の少年達も不満を漏らさなかった。   『いい子だ。帰還を待っているぞ』  通信が切れた。  意気消沈する少年達。    数時間後、海賊船に近づく飛行艇。  エアロックがゆっくり開いて、中へと進入する飛行艇。  そして甲板に静かに着船する。  エアロックが閉じて、船内に空気が給気されてゆく。  飛行艇内、操縦桿から手を離し、大きく深呼吸するマイケル。 「お疲れ様」  と肩に手を置いて労うアレックス。 「僕たち、これからどうなるのかな」  下船をためらうジミー。 「敵前逃亡なら銃殺刑というところだけど……」 「生命は保障すると言っていたじゃないか。心配ないよ、重労働はさせられるかもしれないけど」  立ち上がって乗船口へと移動しながら、下船を促すアレックス。 「開けるよ」  ブルーノが乗船口のハッチを開ける。  少年達が甲板に降り立つと同時に、海賊達が集まってくる。  緊張する少年達だったが、海賊達は意外な行動をしてみせた。  拍手しながら近づいてきたのだ。 「おまえら、ようやったなあ。見直したぜ」 「脱走するなんて、度胸があるな」 「他人の船を略奪だ。これで正真正銘の海賊の仲間入りだ」  口々に話しかける海賊達の口調も表情も、微塵の怒りの様子はなかった。  モレノ甲板長が近づいてくる。 「おまえら、サボってないで仕事しろ!」  一括されて解散する海賊達。  少年達に向き直って、 「まあ。脱走は脱走、規律は規律。ということで、三日間の懲罰房入りだ。ついてこい」  先に立って歩き出したモレノ甲板長についていく少年達。
     
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