第一章

Ⅳ 少年達  海賊船牢屋の中で、暗い表情で座り込んでいる少年たち。  中には、鉄格子に被りついてわめいている元気な子もいるが……。 「ぼくたち、どうなるの?」  一人の少年がか弱い声で呟くように尋ねた。 「決まってるよ。ここは海賊船の中、奴隷商人に売られちゃうんだよ」 「いやだよー」  震えて縮こまる少年たち。  しばらく沈黙の時間があった。  やがて足音が近づいてくる。  モレノ・ジョルダーノだった。 「これから、一人ずつ尋問をはじめる」  牢の鍵を開けて、中に入り少年たちを見まわしてから、 「よし、おまえからだ」  と、一人の少年を指さした。  このような状況でも落ち着いた表情をしている緑色の瞳の少年だ。  指さされた少年は、黙って立ち上がる。 「よし、俺についてこい」  別室に案内される少年。  そこには、凛々しい姿の青年が机を挟んで座っていた。 「始めようか。座ってくれ」  言われたとおりに対面するように腰かける少年。 「私の名前はアントニーノ・アッデージ、この船の船長だ。まずは君の名前を聞 こうか」 「アレックスです」 「姓は?」 「ありません。孤児院では姓は養子縁組が決まった時に決まります」 「なるほど、養子親の姓が付けられるわけか」 「それと、成人して孤児院を出る時に、自分で自由に付けられます」 「ところで、君の瞳の色はエメラルド色だね」 「そうですね。惑星サンジェルマンの人々は、青色の瞳がほとんどです」 「虹彩異色症? いや、オッドアイとは違うが、遺伝子病なのだろうな」 「そうらしいです」 「それで、君のご両親は?」 「分かりません。捨て子ですから」 「そうか、分かった。では、君から尋ねることはあるかね?」 「はい。これからの僕たちの処遇です」 「そうだな。金持ちの子供は、身代金を要求するし、孤児院の子供は奴隷商人に 売るさ」 「でしょうね」 「しかし、君は落ち着いているな」 「泣きわめいたところで、事態が変わるわけありませんから」 「まあ、そうだな……今日は、こんなところか。牢屋に戻ってもらおうか」  控えていたジョルダーノに合図を送る船長。  少年に手錠を掛けて、牢屋へと連れ戻すジョルダーノ。  数時間後、全員の聴聞が終了したところで、少年達に食事が出された。  パンとスープとひと切れの肉が出された。  満腹には程遠いが、空腹を凌ぐには十分だった。  食事が終わると、ドメニコ・ボノーニが、 「食事が済んだら仕事だ! ただ飯食わすわけにはいかないから、お前らには甲 板掃除など働いてもらうぞ」  というと、掃除道具を各自に手渡した。  少年それぞれに分担役割を与えて、広い船内甲板掃除を指示した。  渋々だが、言われたとおりに掃除を始める少年達。  ここは宇宙の彼方の宇宙船内、外へ逃げ出せるわけもなく、抵抗して印象を悪 くすれば奴隷商人に売られるのが早くなるだけである。 「よーし、今日はここまでだ。全員牢屋に戻れ!」  指示された通りに牢に戻る少年達。  船内の掃除や後片付け、荷物運び、食堂の給仕などの雑用に、少年達が駆り出 される日々が続く。  今日も甲板掃除していた少年が、片隅で海賊達が騒いでいる場面に注視した。  戦闘シミュレーションで、空中戦の訓練をしている最中だった。 「やられちまったー!」  頭を抱えて喚く海賊。 「ドジ! 三分も持たねえのかよ」 「そうは言っても、赤い奴がめっぽう強ええんです。しかも通常の三倍の速さだ から」 「どれ、俺にやらせろ!」  と、先の人を押しのけて筐体に乗り移ったのは、空戦隊長のロドリゴ・モンタ ナーリだった。  勢いよく筐体に着席したが、ものの二分で撃墜されてしまった。  頭を掻きながら降りてくる海賊。 「ほれみたことか。今回のステージは毎回攻撃パターンが変わって難度が高いん ですよ」 「ちぇっ」  舌打ちする海賊。 「ねえ、僕にやらせてよ」  と少年が声を掛ける。 「なんだと。難しいんだぞ」 「見てたけど、僕なら簡単だよ」  と愛嬌振りまくように話す少年。 「いいだろう。やってみな」  降りて席を譲る空戦隊長。 「見ててね」  そういうと、少年は席に座りシミュレーターを起動した。  画面には、次々と襲い掛かる敵戦闘機群の攻撃が繰り返される。  それらをいとも簡単に?い潜りながら攻撃を加えて撃墜してゆく。  海賊達が難敵とする赤い戦闘機の出現にも、攻撃を見切りながら反撃する。  そして、ものの見事にこれを撃墜したのである。  さらに進撃し続け、ラスボスである敵母艦を目標に捉え、数分で遂に撃沈させ て作戦終了、クリアしたのであった。 「す、すごい!」  いつの間にか集まって来ていた海賊達から驚愕の声があがる。 「おまえ、やるな。パイロットの経験者か?」  凄腕さに尋ねる海賊。 「まさか、僕はただの学生だよ」 「そうか? 腕前は本職のパイロットだよ」 「実は、シューティングゲームが好きでね。毎日やっているから、こういうのに は慣れているんだ」 「なるほど……おまえの名前を聞いておこうか」 「エヴァン・ケインだよ」 「船長が、戦闘機乗りを欲しがっていたんだ。上申しておくよ、OKならパイロ ットになれて、奴隷商人に売られずに済む」  その発言に、周りの海賊たちが窘める。 「おい、おい。ゲームと実戦は違うぞ!」 「まあ……それは、船長が決めるさ」
     
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