第一章
Ⅲ 海賊船  惑星サンジェルマンから離れつつある海賊船内、牢屋に押し込まれている少年 たち。  まだ催眠剤が効いているのか、床に倒れたまま眠り続けている。  牢の監視室でモニターを見ながら談話する海賊たち。  下っ端らしき一人が隣の人物に尋ねている。 「兄貴、孤児なんかさらってどうするんですかい?」 「おまえ、ロスト・シップを知っているか?」  唐突に話題を振る兄貴分。 「ロスト……知りませんなあ」 「銀河系史上最強の戦艦と言われた船だ」 「孤児と戦艦と、どういう関係があるんですか?」  首を傾げて尋ね返す下っ端の名前は、ドメニコ・ボノーニ。  兄貴と呼ばれたのは、モレノ・ジョルダーノである。 「まあ、話は最後まで聞け。……その船の持ち主の子孫が流れ流れてこの惑星に たどり着いたらしいのだが、船はいつの間にか行方不明となってしまった」 「だからロスト・シップと呼ばれるのですね。しかし、何百年も前のものなんで しょう? 見つかったとしても、故障や経年劣化で動くかもわからないじゃない ですか」 「修理や復元できるかもしれないぞ。そうすれば、俺たち宇宙最強の海賊の誕生 だ」 「つまりそのためには、船の行方を知っているかもしれない持ち主の子孫を捜し ていると?」 「そういうことだ。船主の子孫のとある貴族が、子供の一人を孤児院に捨てたと いうことだ」 「捨てた? なんで?」 「どうやら障碍児だったらしい。貴族の沽券に関わるということじゃないか」 「なるほど、プライドですか」 「そういうこと」 「でもそれもあの中の一人だけでしょ? 他の子はどうするんですかい?」 「奴隷商に売り飛ばすだけだ」 「可哀そうに……」  その時、警報が鳴り響いた。 『総員戦闘配備せよ!』  繰り返していた。 「追手?」 「ドメニコ、配置につくぞ」 「OK!」  二人は海賊船の砲手でもあった。  持ち場へと駆け出してゆく。  海賊船の船橋。  前方の壁一面のパネルスクリーンに、惑星サンジェルマンを背景に接近してく る艦隊が映し出されている。 「船尾魚雷室に魚雷戦発令!」  船長席に陣取るアントニーノ・アッデージが命令を下している。 「了解。船尾魚雷室に、魚雷戦用意!」  復唱する副官フィオレンツォ・リナルディ。  船尾魚雷室では、魚雷の装填作業が行われている。  魚雷を装填し、筒内の空気を抜いて、 「魚雷発射準備完了!」  と、魚雷長のアキッレ・フラスカーニが船橋へ連絡する。  船橋。 「船尾魚雷発射準備完了しました」  乗員達は単に魚雷と略称しているが、光子魚雷のことである。  その基本原理は、物質と反物質が別々のパケットに分けられており、目標到達 と同時にパケットが混合されて、対消滅と同時にエネルギー(光子)を放出させ て、対象物を破壊する。 「発射!」  船長の一声で、船尾から光子魚雷が発射された。  赤い光弾が敵艦隊に向かって一直線に進んでゆく。  やがて敵艦隊に到達して炸裂する。  一瞬にして前衛艦隊を壊滅させた。 「命中しました」  リナルディー副官が報告する。 「敵艦の後方から新たなる艦隊反応あり!」  と、レーダー手のアンジェラ・トリヤッティ。  モニターには、散乱した敵艦の残骸を越えて進軍してくる艦隊が映っていた。 「敵艦にエネルギー反応あり」 「撃ってきます。どうしますか?」  リナルディー副官が尋ねる。 「しつこいな。逃げるぞ、機関全速!」  数に勝る敵と戦うのは無理筋。ここは撤退に限る。 「機関全速! 全速前進!」  副官の復唱と共に、速度を上げる海賊船。  見る間に敵艦との距離を離してゆく。  海賊船だけに逃げ足抜群、高速性能はぴか一である。  数時間後、海賊船はサンジェルマン軍艦隊を完全にまいて、国際中立地帯へと 逃げ込んでいた。 「ここまでくれば大丈夫だ。戦闘配備を解除して、半舷休息させてくれ。私は、 ガキの様子を見てくる。リナルディ、後を頼む」 「了解」  船橋を退出するアッデージ船長。 「船長に変わって、自分が指揮を執る。半舷休息を取らせるので、まずは第一班 から第四班までとし、三時間後に残りの班を休ませる」  指揮を任された副長が指示を出した。  牢屋のある監視室に入室する船長。 「ガキはどうしてる?」  砲塔から戻ってきていたジョルダーノに尋ねるアッデージ船長。 「ついさっき目覚めたばかりです」  と言いながら、モニターの音声をオンにした。 『ここはどこだ!』 『出してよ!』  などといながら、牢の鉄格子に被りついている。 「元気だな」 「みたいですね」 「一人ずつ別室に連れ出して身辺調査を開始してくれ。例の貴族の息子を洗い出 すんだ」 「全員外れだったら?」 「いつもの通りだ」 「分かりました」
     
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