第一章
Ⅱ 海戦ゲーム  十五年の時が過ぎ去った。  とある小さな村。  村はずれの広場で、子供たちが二チームに分かれて『海戦ゲーム』なる遊びを していた。  戦闘域である広場の東西両端にある本陣と、南北両端にそれぞれ砦が配置されている。  大まかなルールは、 ① 広場を駆け回って球をぶつけ合って、球が当たれば退場。 ② 球は各自二個、本陣と砦で補充できる。但し、本陣は三十個、砦は十個まで。 ③ 指揮官は本陣から出ることができず、球を当てられた時点でチームの負け。  ちなみに、球は端切れの布を縫い合わせてお手玉のように作り、チョークの粉 が仕込んである。当たれば相手の身体に付着するから、当たり判定を明確にでき る。  北チームは、隣接する町の学校のサッカーチーム。  南チームは、この村の孤児院の児童だった。  遊び場を巡っての広場の争奪戦だった。  勝った方が一週間の広場使用権を得ることができる。  元々は孤児院の児童たちの遊び場だったのだが、隣町からサッカーチームがや ってきて、強引に占拠するようになった。  黙って見過ごすことのできない孤児院側との喧嘩が日常茶飯事となり、双方と も怪我が絶えなくなった。  そうした時、解決策を出した少年が現れた。  綿密なるルールに則った海戦ごっこなる遊びを考案したのである。  彼は、正々堂々と試合をして勝った方に、一週間の使用権を与えるというもの だった。  孤児院育ちの者は、栄養不足気味で体力と持久力で不利だった。  直接組み合うのでは勝敗は、すでに決まったようなもの。  間接的にボールを投げあうことで、体力差などをカバーできるようにした。  海戦開始の時間が迫った。  広場の中央に各チームが向かい合って並んで挨拶し、それぞれの陣に向かう。  そして五分間の作戦タイム。  孤児院チームの大将(提督)は、アレックスという少年だった。  海戦ゲームを提案した人物でもある。  深い緑色の澄んだ瞳をしている。  円陣を組んで細かく指示を出している。 「それでは始めます!」  審判が戦闘開始のホイッスルを鳴らした。  大将が倒れれば勝敗が決まるので、いかにして大将を守るか、倒すかがポイン トである。  またボールを補充できる砦を奪い守ることも重要だ。  サッカーチームは試合開始と同時に本陣を守る十隻を残して、五隻が東の砦、 五隻が敵本陣に向かって突進を始めた。  孤児院チームは、本陣に五隻のみを残して、砦奪取は無視して迎撃のために五 隻、残りを本陣突入に当てた。  サッカーチームは、自陣に十隻が突入するのをみて驚いた。  砦をまず先に占領するのがセオリーだったからだ。  そんな両チームを広場の脇にあるベンチから眺めている人物がいた。  サッカーチームの監督であった。  と、そこへ声を掛けてきた者がいた。 「どうなっていますか?」  振り返ると、初老の婦人が近寄ってきた。 「これは、院長先生」  孤児院の院長であった。 「今、二戦目に入ったところです」 「初戦はどうでしたか?」 「孤児院チームの勝ちです」 「そうですか」  といいながら、監督の隣に腰を降ろす。 「孤児院チームはなかなか試合巧者ですな」 「どうしてですの?」 「大将役の少年が、的確な作戦を出しているようで、こちらのチームが翻弄され ています。まあ、何せこのゲームを発案した人物ですから、利点も弱点も知り尽 くしています」 「そうですのね。優秀な子ですから、裕福な家庭への養子縁組の話が絶えないの ですけど、何故か彼は皆断っているのですよ」 「どうしてですか?」 「士官幼年学校への入学を希望しているからです」 「軍人になりたいと? 海戦ゲームを発案したのも納得できますね」 「侵略国家ケンタウルス帝国と戦うために尽力するから、養子には行けない、と ね」 「国家のために戦うと?」 「そのようですわ」  ため息をもらす院長であった。 「あれは、なんだ!」  突然、広場で興ずる少年が動きを止めて、天空の一角を指さした。  真っ青な空に黒い物体が現れたかと思うと、急速にその大きさを増してゆく。 「こっちへ来るぞ!」  その船体には、国家や機関などの所属を示すマークが一切ない不明船だった。 「海賊船だ!」 「近頃、この惑星付近を荒らしまわっているとかいう奴だ!」  海賊船は、急降下で接近してくる。 「こっちへ来るぞ!」 「逃げろー!」  逃げ惑う少年たち。  船から発射されるミサイル。  少年たちのいる広場の上空で炸裂して、小さなカプセル状のものをまき散らす。  それがさらに割れて出た液体が少年たちに降りかかる。  と、バタバタと倒れてゆく少年たち。 「助けなきゃ……」  ベンチで見ていた院長や監督が駆け寄ろうとしたが、叶わずに同様に倒れてし まう。  広場にいた者全員が倒れた頃、海賊船から飛行艇が飛び出して着陸する。 「全員回収するのか?」  降りてきた防毒マスクを被った数人の乗員が少年たちを次々と抱え上げて飛行 艇に乗せている。 「誰が本命か分からないからな。ひとまず全員回収して、船の中でじっくり吟味 するらしい」 「面倒だな……」 「ブツブツ言ってないで早くしろ!」 「へいへい。で、こっちの大人の方は?」 「子供しか聞いていない。放っておけ」 「へい」  広場に倒れている少年全員を乗せ終わると、 「よし、ずらかるぞ!」  飛行艇を発進させた。  やがて飛行艇を回収した海賊船は、再び宇宙へと飛びたった
     
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